デンマークの「ノーマ」や「カドー」など北欧のシェフあたりから火が点き、いま世界中で発酵食品がトレンドになっています。注目されている理由は、独特の味わいだけでなく、食事に取り入れることで健康寿命を長く保てる、旬の食材をうまく使い切ることができるなど、さまざまな利点があるから。味噌や醤油で育った私たちの国は、実は世界に名だたる発酵大国であり、各地で多種多様な発酵食品がつくられてきました。その驚くべき全貌を訪ねた壮大な旅のルポが、渋谷ヒカリエのd47 MUSEUMで開催中の『Fermentation Tourism Nippon 〜発酵から再発見する日本の旅〜』展です。発酵からひも解く日本の地方文化の多様性を調査し、各都道府県から1~2点ずつ、47種以上の発酵食品を自らの足で集めたのはキュレーションを手がけた小倉ヒラクさん。日本初の発酵デザイナーです。小倉さんに、この展示にかける思いや見どころを聞きました。
発酵から見えてくる、日本各地の暮らしぶり。
「今回の旅で自分に課したのは、展示する発酵食品の種類が重ならないようにすること。つまり、日本酒や醤油はひとつずつしか選べません。さらに、土地のルーツに根差したものを選びました。その土地のコミュニティで、少なくとも3代以上受容されてきたものです。発酵食品を通じて、そこでその食品をつくり出した必然性や、暮らしぶりが見えてくるんです」と小倉さんは話します。
今回展示される食品の中には、長崎・対馬の「せん団子」や青森・十和田の「ごど」など、普段なかなか知る機会がない、珍しいもの少なくありません。
「『せん団子』は、サツマイモのデンプンをとんでもない手間をかけて取り出してつくる発酵食品。実物を見たら、目が点になると思います。なんでこんなものをつくったんだろう? その疑問で頭が一杯になります……。でも、その疑問点こそが、生み出した土地の気候風土や歴史、暮らしぶりを探る出発点になる。『せん団子』から見えてくるのは、対馬の寒さです。南国生まれのサツマイモは、普通の食べ物とは違って気温が10度以下になると腐ります。冬、寒い海風に晒される対馬では、米が豊富には穫れず、貴重なエネルギー源であるサツマイモを腐らせたくなかった。それでつくられたのが、発酵させて保存食にした『せん団子』」なんです」
独自の発酵食品は、地域そのもののアーカイブ
本展は単なる物産展ではありません。さまざまな発酵食品を通して、日本人がどうやって生きてきたのか?日本人とはなにか?を、実際に日本列島を旅して行くように、微生物の視点から再発見する「発酵の旅」そのものです。
「発酵食品は、その土地の味覚や暮らしぶりの記憶が保存された、言わば地域のアーカイブなんです。だから、結果としてディープでマイナーなものが多くなってしまいました。実際に香りを嗅げるものとかもありますから、ぜひ五感で発酵の奥深さを感じてください」
四季の中で暮らしてきた日本人は、旬の素材をいかにして保存するか、という問いにいつも直面してきました。その救世主となったのが、微生物たちが引き起こす「発酵」というマジックでした。添加物を使っていない食品を探すのが難しい現代、発酵は食品本来の製法や味わいを取り戻すという意味でも、食の世直しの最先端を走っています。開催期間中は、トークショー、勉強会、ワークショップ、角打ちなど、さまざまなイベントも行われています。渋谷ヒカリエで、ディープな‟発酵ツーリズム”を楽しんでみてはいかがでしょう。
『Fermentation Tourism Nippon 〜発酵から再発見する日本の旅〜 supported by カルピス』
開催期間:2019年4月26日(金)〜7月8日(月)
開催場所:渋谷ヒカリエ8F d47 MUSEUM
東京都渋谷区渋谷2-21-1
TEL:03-6427-2301
開催時間:11時〜20時 ※入場は19時30分まで
会期中無休
入場料無料
※館内イベント開催時は開館時間が変更になる場合があります。変更のお知らせは、下記HPおよびSNSにて告知。https://static.d-department.com/jp/fermentation-tourism-nippon