待望のファーストリリースがいよいよ迫り、日本のクラフトウイスキー界を盛り上げていく、4つの蒸溜所とは。2020年に注目すべきディスティラリーを紹介する。
鹿児島県・マルス津貫蒸溜所 ── 信州に続き、南国で最新設備を導入。
マルス信州蒸溜所に次ぐ、本坊酒造の第2蒸溜所として注目を集めるのが、同社創業の地である鹿児島県南さつま市に創設されたマルス津貫蒸溜所だ。本格稼働は2016年11月。日本のウイスキー蒸溜所としては本土最南端に位置するが、本坊酒造はさらに南の屋久島にも貯蔵庫をもち、2蒸溜所に加えて3エージングセラー体制を実現する。信州での歴史あるウイスキー造りに対して、津貫では気鋭の若き造り手・草野辰朗を中心に、さまざまな可能性を感じさせる新たなチャレンジも実施。最新の設備を導入し、熟成過程を見守りながら理想の味を追求する。その成果となるシングルモルトのリリースも間近だ。ファン大注目の新鋭蒸溜所といえる。
静岡県・ガイアフロー静岡蒸溜所 ── モルトファンの夢を体現する、“オクシズ”の実力派。
スコットランドの人気ボトラーズブランド「ブラックアダー」や、インドの「アムルット」などのウイスキーを手がける輸入業者としても知られる、ガイアフロー。同社が“オクシズ”(=奥静岡)と呼ばれる静岡県の中山間地域に創設したのが、ガイアフロー静岡蒸溜所だ。“見学する楽しみ”を意識して設計されたモダンな蒸溜所では、地元の材を使った杉桶の発酵槽や、薪直火焚きのポットスチル、閉鎖された軽井沢蒸溜所のポットスチルなどを使い、まさにモルトファンの夢をカタチにしたようなウイスキー造りが行われている。
一般向けのリリースは2020年秋。樽のオーナーになれる「プライベートカスク」や、ニューメイクから5年熟成までのウイスキーが毎年6本ずつ届く「プレミアム・ボトルセレクション」などの企画を数量限定で実施。今年にはドイツのニュルンベルクで開催されたウイスキーイベントにおいて、2種のニューメイクと、熟成途中のカスクサンプルを海外の愛好家に初披露。そのポテンシャルに世界が注目する、ジャパニーズクラフトの筆頭格だ。
福島県・安積蒸溜所 ── 254年の歴史を誇る、老舗酒造の挑戦。
1765年創業の老舗酒蔵であり、1980年代には「チェリーウイスキー」で人気を博した笹の川酒造。かつて、ベンチャーウイスキーの肥土伊知郎社長の祖父が創設した東亜酒造の羽生蒸溜所が閉鎖される際、処分されてしまう運命にあった原酒の保管を引き受けた。その原酒がのちに「イチローズモルト」として世界を席巻する。
そうした経緯もあって、創業250年を迎えた2015年から準備が進められた笹の川酒造の本格的なウイスキー造りには、肥土のアドバイスが活かされている。既に、バーボン樽やシェリー樽、ミズナラ樽で熟成させたニューボーンがリリースされ、愛好家からの評価も上々。2019年の12月に待望のシングルモルトもリリースされた。
滋賀県・長濱蒸溜所 ── 城下町で、ユニークな試みを仕掛けていく。
地元では「長濱浪漫ビール」で知られ、ビール醸造所とレストランとが一体となった施設を滋賀で営む会社が、2016年にクラフトウイスキー造りを本格始動した。日本最小を謳う、わずか8坪の蒸溜所では、麦芽の粉砕から糖化、発酵までの設備をビールと兼用。蒸溜にはひょうたん形をしたポルトガルのホヤ社製のポットスチルを採用するなど、ビール造りのノウハウを活かしたウイスキーを生む。
シングルモルトに先行して、現在までにニューメイクや、海外のモルトと長濱のモルト原酒とをブレンドした「アマハガン」シリーズをリリース。1泊2日でウイスキー造りを学べる蒸溜所体験ツアーなど、ユニークな試みでも注目されている。
こちらの記事は、2019年Pen10/15号「いま飲むべき一本を探して、ウイスキーをめぐる旅。」特集からの抜粋です。