「好き」をきっかけに生み出す、時代に求められているモノ。
―サイドスロープが出合う、クリエイションの精神 04―
脇坂 モノづくりの現場の方との対談連載も4回目。今回はオルガン針株式会社の戸谷豊さんがお相手です。
戸谷 初めてお会いしたのは中国の重慶でしたね。一緒に食事をしている時に脇坂さんが、工場の倉庫にあった残糸を見て「サイドスロープ」を始めた、と話していたのが印象的でした。
脇坂 ニットは糸が一本あればつくれるので、不要になった糸でも、僕にとっては「もったいない」んです。
戸谷 「もったいない」から始まるデザインって、なかなかないですね。
脇坂 昨年から日本のニット工場を回っているのですが、行くと必ず最新の機械を見せてくださるんです。でも僕は古い機械の方が気になって。最新の機能などなくても、その機械にしかつくれないものがあるから。
戸谷 私も最新設備や自動化は必要だと思うのですが、やはり肝心要の部分は人の手でやらなければ、いい針はつくれないと思っています。いい針とはつまり、当たり前のように問題なく使っていただける針です。
脇坂 オルガン針さんは2020年で100周年を迎えるそうですね。
戸谷 おかげさまで。私も来年で入社30年になります。
脇坂 針一筋30年!
戸谷 本当に、針一筋ですね。
脇坂 針の話を始めたら止まらないですもんね、戸谷さん。
戸谷 針って面白いんですよ。一本つくるのにも、切断、切削、プレス、研磨、熱処理……、金属を加工するあらゆる工程を使うんです。さらに、切削加工ひとつとっても、どのカッターで、どんな油を使って削るかで、仕上がりが大きく違ってくるんです。
脇坂 僕も、ニットづくりが面白くて仕方がないですね。糸選びからデザイン、設計まで自分で考えたものが、形になった時の感動が堪らなくて。僕はニットが好きすぎて、街中や電車でも人が着ているニットが気になるんですが、そういうことはありますか?
戸谷 ありますよ。製品のステッチが気になります。新車を見に行くと、まずシートのステッチを見ちゃいます(笑)。どんな針使っているのかなと。
脇坂 完全に針オタクですね! 僕もニットオタクですけれど、モノとコストとサービスのバランスがとれた製品をつくっていかなければと思っています。それがいまの時代に求められている「いいもの」だと思うので。
戸谷 そうですね、より多くの人からの声に応えられる、納得のいくものをつくっていかないと、ですね。
脇坂 我々、オタクですけど。
戸谷 オタクですね(笑)。
サイドスロープ SIDE SLOPE
●2005年に誕生したニットファクトリーブランド。数々のブランドの企画に携わってきた脇坂大樹がデザイナーを務める。「遊び心のある大人を満たすニット」をテーマに、洋服の価値に対して合理的な値付けや、資源の再利用も視野に入れた商品を展開。着心地のよい上質なニットを、国内外へ発信する。
脇坂大樹 サイドスロープ デザイナー
●1972年、大阪府生まれ。企業のパタンナーやデザイナーを務めたのち、ニットデザイナーとして数々のブランドの企画に携わる。2005年に「サイドスロープ」を立ち上げ、工場の技術力や素材の特徴を熟知したテクニックを生かし、新たな発想をもってモノづくりに挑戦している。
戸谷 豊 オルガン針株式会社 開発本部 本部長
●1965年、長野県生まれ。1988年にオルガン針株式会社入社。製品開発担当や中国・重慶支社の責任者などを経て、現職に。学生時代はスキー板の製造業を目指していたが、「細長くて、しなる」点が似ていることから針製造の道に進んだという、独特な感性の持ち主。
問い合わせ先/フォワード・アパレル・カンパニー
TEL:03-5423-6451 www.sideslope.jp