『E.T.』で主人公の母メアリーが着ていたデニムのオーバーオールは、機能性抜群なアメカジの名品

    Share:

    『E.T.』で主人公の母メアリーが着ていたデニムのオーバーオールは、機能性抜群なアメカジの名品

    文:小暮昌弘(LOST & FOUND) 写真:宇田川 淳 スタイリング:井藤成一
    イラスト:Naoki Shoji


    1982年に公開されたスティーブン・スピルバーグ監督の映画『E.T.』。地球に取り残された宇宙人と少年の交流を描いたこの作品は、単なるSFの枠を超え、多くの人の心に永く残る名作となった。今回は、この名画を彩る80年代の“アメカジ”の名品について語る。


    ライトインディゴのデニムを使ったリーの名品オーバーオール。機能的なポケットなどがついた胸当てのデザイン。パンツ部分にはハンマーループやポケットなどを装備。メタルボタンにはブランドマークが刻印されている。白ステッチもデザイン的にアクセントになっている。¥15,400(税込)/リー

    『E.T.』で描かれたエリオット(ヘンリー・トーマス)の家庭は一見幸せそうに見えるが、父親とは別居中で、いわば母子家庭だ。母親のメアリー(ディー・ウォーレス・ストーン)は父親のぶんも子どもの面倒を見ている。スピルバーグ監督は『未知との遭遇』(1977年)でも同じような境遇の母親を主人公のひとりにしているが、これは16歳で両親が離婚して、父親と不仲になったスピルバーグ監督自身の人生が投影されているという話もある。

    E.T.の存在に驚きながらも、最後はE.T.とエリオットの別れを暖かく見守る母親メアリーが自宅で着用していたのが、当時のアメカジに欠かせないデニムウエアのオーバーオールだ。

    エプロンとパンツをドッキングさせたデザインが特徴で、いかにもアメリカのライフスタイルを感じさせるデニムウエア。ゆったりとしたシルエット、胸当てはサスペンダーで吊られている。動きやすく、脱ぎ着も楽。各所には多彩なポケットが備わり、ペンキ塗りや芝刈り、自動車の修理など、家でDIY(ドゥ・イット・ユアセルフ)する時にも重宝される。

    『E.T.』でメアリーが着用していたのはライトデニムで、色は薄いタイプ。オーバーオールではブランドタグを胸当てや背中に付けたものが多かったが、メアリーが着たオーバーオールにはどこにもタグが付いていない。しかしメタルボタンなどを見ると、オーバーオールの名品と言われるアメリカのリーの製品に似ているように思える。

    リーは1889年にアメリカのカンザスでヘンリー・デヴィッド・リーが創業した、食品と生活雑貨の卸商の会社をルーツとする。ワークウエアも彼の取り扱いアイテムのひとつで、当初は他社のものを仕入れていたが、1911年から自社工場で8オンスデニムのオーバーオールやワークジャケットの生産をスタートし、その品質の高さから評判を集める。1913年にはクルマを整備する時に便利な作業着「Lee Union All」を開発、その機能性が認められ、アメリカ陸軍のユニフォームに採用されという華々しい歴史をもつ。1975年に発行された『Made in U.S.A catalog』(読売新聞社)ではさまざまなリーのワークウエアが紹介され、「その機能性を見ると、働きもののアメリカ人がそこにいる」と評している。日本でも70年代から80年代にかけては、リーのオーバーオールに代表されるワークウエアがブームとなった。

    実は『E.T.』では母親のメアリーだけでなく、エリオットも妹のガーティ(ドリュー・バリモア)も同じようなワークウエアを着ている。エリオットは胸当てのポケットがシンプルなデザインのオーバーオール。パンツのシルエットがフレア気味なのは80年代らしい。一方、ガーディはつなぎのカバーオール。素材もコーデュロイでファスナーの使い方が洒落ている。母親だけでなく子供たちまで着ているのは、それだけオーバーオールが認知されていた証拠だろう。最近、女性を中心にオーバーオールが再び人気を集め、リバイバルの兆しが感じられるアメカジの逸品と言える。

    背面の中央に入ったブランドの織りネーム。背面とサスペンダーが一緒になったデザインがオーバーオールの特徴。

    胸当て=ビブに小さなポケットがあるのは、昔、ここに懐中時計を入れたから。デザインすべてに理由がある。これがワークウエアの真髄だろう。

    1970年代に販売されていた、リーのワークウェアに付いていたペーパータグ。オーバーオールの機能が詳しく書かれている。(筆者所有)背面の中央に入ったブランドの織りネーム。

    大人の名品図鑑のポッドキャストがスタートしました!

    ポッドキャストを聴く(Apple/Spotify/popinWAVE



    問い合わせ先/リー・ジャパン カスタマーサービス TEL:0120-026-101
    http://lee-japan.jp/