映画『E.T.』で主人公が着ていたネルシャツは、80年代のアメリカの中流家庭を象徴するアイテム

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    映画『E.T.』で主人公が着ていたネルシャツは、80年代のアメリカの中流家庭を象徴するアイテム

    文:小暮昌弘(LOST & FOUND) 写真:宇田川 淳 スタイリング:井藤成一
    イラスト:Naoki Shoji

    1982年に公開されたスティーブン・スピルバーグ監督の映画『E.T.』。地球に取り残された宇宙人と少年の交流を描いたこの作品は、単なるSFの枠を超え、多くの人の心に永く残る名作となった。今回は、この名画を彩る80年代の“アメカジ”の名品について語る。

    ヘビーフランネルのコットン素材を使ったシャツ。1960〜80年代にアメリカのネルシャツにみられた経の色糸の下に緯の色糸を重ねるように織った「ダブルフェイスフランネル」素材。厚手ながら肌触りのよいソフトな生地に仕上がっている。¥9,350(税込)/カムコ

    『E.T.』は当時のアメリカのライフスタイルを知る上で絶好の教科書と言える。映画で描かれているのは都心から離れた「サバービア」と呼ばれる郊外の新興住宅地。エリオットの家はガレージ付きで、子供たちの部屋があり、食卓もまるでダイナーのよう。観音開きの大きな冷蔵庫にはクアーズの缶ビールが並び、ピザもデリバリーで自宅に配達してくれる。当時の日本では夢のような暮らしだが、エリオットの家は特別裕福な家ではなく、どちらかと言えば中流家庭。父親は不倫相手とメキシコに旅行中で、母親のメアリーが父親代わりに家を取り仕切っている。こうした設定はスピルバーグ自身が少年時代に過ごしたアリゾナ州スコッツデイルの暮らしが色濃く反映されたもの。映画の中で丘から町を見下ろすカットがよく登場してくるが、これがスピルバーグの原風景とも言われている。

    こうしたアメリカ郊外の中流家庭を象徴するのが、エリオットがよく着ていたチェックのネルシャツに違いない。ネルシャツとは「フランネル」という生地を使ったシャツのこと。その起源は17世紀のイギリスのウェールズにあり、農民が身を守るために着用していたという説が有力だ。1930〜40年代、アメリカで多くのワークウエアブランドが採用。70年代には、ファッションアイテムとして親しまれるようになったアイテムだが、それはまさに『E.T.』が製作された時期と合致している。

    1975年に発行された『Made in U.S.A catalog』(読売新聞社)では、「アメリカの男ならばだれでも着古したやつを2〜3枚は持っている」とチェックのネルシャツを紹介する。映画でエリオットが着用しているのが、ブルーのオープンカラー風のネルシャツやボタンがスナップタイプになったウエスタン風のチェックシャツ。いつも袖を肘の上までロールアップしているが、よく見ると裏地が白っぽくなっており、チェックはプリントされたものだろう。当時はこんなプリントのネルシャツが多かった。

    1988年、東京・神保町で創業したアメカジショップの「メイン」で扱っているのは、カムコのネルシャツ。アメリカのアーカンソー州で設立されたブランドで、カムコは50年代にはシアーズ、J.C.ペニーといったアメリカの有名百貨店のオリジナルシャツを手がけていた老舗だ。糸から染めて生地を織り上げた本格的なコットンフランネルの素材、皿ボタンなどのパーツや頑丈な縫製など、妥協のないものづくりが特徴。エリオットのように80年代のアメカジを気取るならば、絶好のシャツではないだろうか。

    ちなみに劇中ではE.T.自身もチェック柄でネル素材のガウンを着ている。まるでエリオットを真似ているようで、とても印象的だった。

    チェック生地をバイアス=斜めに使ったポケットが特徴的。上質な素材の皿ボタンを採用するなど、すべてが本格的。

    アメリカのアーカンソー州で誕生したファクトリーがルーツ。アメリカの大手百貨店やミリタリー向けのシャツなどを生産していた実績をもつ。

    古い織機で織られたライトフランネルの生地を採用したモデル。襟型はオープンカラー仕様。ボックスシルエットで、スクエア型の裾も特徴的だ。¥10,450(税込)/カムコ

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    問い合わせ先/メイン TEL:03-3264-3738
    https://www.maine1988.com