寂寥感あふれる鹿撃ちシーンを印象づけた、『ディア・ハンター』のマウンテンパーカ
文:小暮昌弘(LOST & FOUND) 写真:宇田川 淳 スタイリング:井藤成一【ロバート・デ・ニーロ編】
第1回 夜のニューヨークを駆け抜けた、『タクシードライバー』のタンカースジャケット
映画『ディア・ハンター』(1978年)でロバート・デ・ニーロが演じたのは、ペンシルバニア州ピッツバーグの鉄工所で働くロシア系移民のマイケル。徴兵されたマイケルは、同じ街に住む友人、ニック、スティーブンとともにベトナムに向かうことになり、スティーブンの結婚式を兼ねた壮行会が盛大に開かれる。夜が開けると、マイケルは友人たちと鹿狩りに出掛け、山中で大きな鹿を見事に射止める。この後、ベトナムの地獄のような戦場が彼らを待ち受けていることも知らずに……。
鹿狩りの場面でマイケルが着ていたのが、アウトドアの名品として知られるマウンテンパーカだ。1968年にシエラデザインズがコットンとナイロンを混紡した「60/40クロス」を使ってデザインしたアウターがオリジナルと言われている。しかしマイケルが着ていたのは、1947年にコロラド州で創業したアウトドアブランド、ホルバーのものだ。同社のHPには、『ディア・ハンター』の映画製作スタッフから衣装提供の依頼があったと書かれている。アウトドアアイテムに詳しいブルース・ジョンソン氏が検証したところ、これはホルバーが76年〜77年の間に製造していた「ヨセミテパーカ」であると解明されたという。それは映画公開年度とも合致している。
ホルバーはその後オーナーが変わり、一時姿を消していたが、2011年にイタリアの資本でブランドが復活、ヨセミテパーカのディテールを踏襲しつつ、現代的にモディファイした「DEER HUNTER PARKA」がいまでもリリースされている。
映画のエンディング近く、戦場から戻ったマイケルが同じパーカを手に再び鹿狩りに出掛ける。しかし鹿を目の前にしても、引き金を引くことができない。そこに戦争で受けた彼らの大きな傷が表現されている。
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