カート・コバーンの生き様を投影する、グランジ・ファッションに欠かせないアイテム
文:小暮昌弘(LOST & FOUND) 写真:宇田川 淳 スタイリング:井藤成一第4回 ダニエル・ジョンストンのTシャツ
1967年、アメリカ・ワシントン州のアバディーンで生まれたカート・コバーン。2歳の時、早々と音楽に興味を示し、7歳の頃にはビートルズの『ヘイ・ジュード』を歌いながら近所を練り歩いていたという。しかし、両親の離婚をきっかけにカートは引きこもりがちな少年になってしまう。そんな彼が聴いていたのはブラック・サバス、レッド・ツェッペリンなどのロック。そこから、ハイスクール時代に知り合いからもらったパンクロックのテープがきっかけとなり、本格的に音楽の道を志していく。フィーカル・マターというバンドを経て、87年にクリス・ノヴォセリックらとともに伝説のグループ、ニルヴァーナを結成。90年にはメジャーデビューを果たし、セカンドアルバム『ネヴァーマインド』並びに収録曲の『スメルズ・ライク・ティーン・スピリット』が大ヒットする。注目されたのは音楽だけではない。カートが着ていたネルシャツ、穴の開いたジーンズといったラフな着こなしは、彼らの音楽性になぞらえて「グランジ・ファッション」と言われた。
若くして一気にスターとなったカートだが、やがてドラッグや鬱病に苦しむようになり、94年、シアトルの自宅で自殺した姿が発見される。彼が亡くなったのは27歳。奇しくもジミ・ヘンドリックス、ジム・モリソン、ジャニス・ジョップリンなど、他のレジェンドたちが亡くなった年齢と一緒だ。今回は、彼の“生き様”をそのまま投影したような「グランジ・ファッション」の名品を紹介する。
高価な服に対して抵抗を感じていたカート・コバーンにとって、ファッションはいわば“遊び”のひとつと言える。そんな意味で彼がよく着用していたのが、プリント入りのTシャツだ。
音楽雑誌『サウンドマガジン』のロゴが前身頃に大きく入ったロングTシャツや、コートニー・ラブとの間に生まれた娘フランシスを抱いた写真では胸に「grunge is dead(グランジは死んだ)」とプリントされた黒のTシャツを着ていた。
ダニエル・ジョンストンが描いた、どこか愛くるしいキャラクターがプリントされたTシャツも、彼がこよなく愛したアイテムとしてよく知られている。ちなみに1992年の「MTVアワード」でも、彼はそのTシャツを着て出演していた。
ダニエル・ジョンストンは61年、アメリカのサクラメントで生まれたアーティスト。シンガーソングライターでもあり、日本においてもカルト的な人気がある。トム・ウェイツ、ソニック・ユースなど、数々のアーティストに影響を与えるだけでなく、リスペクトされている人物だ。2005年には彼を追ったドキュメンタリー映画『悪魔とダニエル・ジョンストン』が製作され、サンダンス映画祭で監督賞も獲得している。
ダニエル・ジョンストンは残念ながら、2019年に58歳という若さで心臓発作のため亡くなった。カート・コバーンも子どもの頃から絵をたくさん描き、多くのアート作品を遺しているが、ダニエル・ジョンストンのTシャツは、そんなカートらしいセレクトと言える。
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