映画『ファースト・マン』から見る、アポロ計画に欠かせなかったアイテム
文:小暮昌弘(LOST & FOUND) 写真:宇田川 淳 スタイリング:井藤成一第1回 ゼロハリバートンのアルミケース
2018年、『ファースト・マン』という1969年7月20日にアポロ11号による月面着陸を成功させた、人類史上に残る偉業を克明に描いた映画が公開されました。同作品の監督は、『ラ・ラ・ランド』で第89回アカデミー賞監督賞を獲得したデイミアン・チャゼル。主演はその『ラ・ラ・ランド』で彼とコンビを組んだライアン・ゴズリングです。ちなみに『ファースト・マン』は、第91回アカデミー賞で視覚効果賞を受賞しています。
タイトルの“ファースト・マン”とは月に降り立ったアポロ11号のニール・アームストロング船長のことで、この映画では彼の視点を通してアポロ11号の過酷なミッションが描かれるほか、家族との生活や仲間との別れといった彼の日常のきびしさも触れられています。最近の映画には珍しく、デジタル技術をあまり使わずに撮影した映像は迫力満点。舞台となった時代のシンセサイザーやテルミンなどを使った音響も素晴らしく、ぜひ大画面で楽しんで欲しい映画です。
今年は、アポロ計画の偉業からちょうど50年のアニバーサリーイヤー。2019年7月から『ファースト・マン』のDVDなどがリリースされていますが、当時の宇宙計画にご興味ある方は『ライトスタッフ』(1983年)、『アポロ13号』(1995年)、『ドリーム』(2015年)、『アポロ11号 完全版』(2019年)などもオススメです。今回は『ファースト・マン』におけるアポロ計画で使われた名品を解説します。
ナビゲーター/小暮 昌弘
法政大学卒業。学生時代よりアパレルメーカーで勤務。1982年から(株)婦人画報社(現ハースト婦人画報社)に勤務。『25ans』を経て『Men’s Club』で主にファッションページを。2005年から2007年まで『Men’s Club』編集長。2009年よりフリーに。(株)LOST &FOUNDを設立。現在は、『Pen』『GQ』『Men’s Precious』などで作文を担当。
アメリカ空軍でテストパイロットを務めていたニール・アームストロングは、NASA(アメリカ航空宇宙局)が立てたジェミニ計画の宇宙飛行士に選ばれ、過酷な訓練を受けながら、その後のアポロ計画で月を目指します。NASAからアポロ11号に搭載する「月面採取標本格納器」の製造を依頼されたのが、アメリカのラゲージブランド「ゼロハリバートン」です。映画のなかでもクルーたちがアルミ製と思われる大型のケースを持ってアポロ11号に乗り込むシーンが描かれていますが、どのようにしてこの「標本格納器」が船内に持ち込まれたかは映画では説明されていません。しかし、月面から「月の石」を持ち帰るケースとして使用されたことは紛れもない事実です。
「ゼロハリバートン」は、1938年にアメリカ南カリフォルニアで創業されたブランドです。創業者であるアール・P・ハリバートンが個人のコレクションとしてつくっていたアルミニウムケースが話題を呼んだことが会社設立のきっかけでした。ちなみに、マレーネ・ディートリヒ、ジャネット・リーなどのハリウッド俳優にも愛用されていたことでも知られています。
熱加工や表面処理、丹念な磨き加工を経て生み出されるアルミニウム合金を使ったボディが「ゼロハリバートン」の特徴で、高い耐久性と強度、そして気密性を誇ります。そういった技術力と品質の高さがNASAから「月の石」を収納する格納器を依頼された大きな理由だと思われますが、そのときに使われたケースはいちからつくったものではなく、当時の現行品の内側だけを改造しただけのもので、そのエピソードから「ゼロハリバートン」の名前は一躍世界に知られるようになりました。
また、アポロ11号が月面着陸に成功した日と同日の2019年7月20日からは、「月面採取標本格納器」にオマージュを捧げる限定のテクニカルケースも発売されました。
問い合わせ先/ゼロハリバートン カスタマーサービス TEL:0120-729-007