映画「太陽がいっぱい」で見せた、貴公子アラン・ドロンのスマートな着こなし。
文:小暮昌弘(LOST & FOUND) 写真:宇田川 淳 スタイリング:井藤成一第1回 「タリアトーレ」のストライプブレザー
フランスの俳優、アラン・ドロンを一躍スターダムに押し上げた映画が1960年公開の『太陽がいっぱい』です。アメリカ人の女性小説家パトリシア・ハイスミスの原作をフランスの名匠ルネ・クレマンが監督した作品。風光明媚な南イタリアを舞台に友人を殺して完全犯罪を目論む青年リプリーを主人公にしたロマンティックなミステリー映画。主役であるアメリカ出身の青年を演じたのがアラン・ドロンです。“イタリアのアメリカ人”ではありませんが、ジャケット、ボタンダウンシャツ、ホワイトジーンズなど、アメリカ人好みのトラッドなアイテムを、ヨーロッパ流にコーディネートするその洒脱な着こなしは、いま観ても新鮮で、古びることはありません。ニーノ・ロータが作曲した哀しげなテーマ曲とともに、彼のスタイルは、多くの人の記憶に刻まれています。
『太陽がいっぱい』で、アラン・ドロンが演じるのは、アメリカからイタリアにやってきた青年リプリーです。サンフランシスコの富豪の息子フィリップ(モーリス・ロネ)をアメリカに連れ戻すためで、それに成功すれば報酬がもらえることになっていました。リプリー(アラン・ドロン)は多くのジャケットスタイルを披露しています。トラッドスタイルの永遠の定番のネイビージャケットから、淡いグレーのジャケットなど。中でもいちばん印象に残るのがストライプのブレザーです。しかもボタンがメタル製で、英国のクラブブレザーを連想させますが、映像からも伝わるその柔らかな仕立ては、もしかしたら舞台にもなっているイタリア、ナポリ辺りで仕立てられたものかもしれません。ラペルの上襟の生地の取り方が独特で、下襟からストライプが続いている仕様は、注文で仕立てたジャケットに思えます。実はこのジャケットはリプリーのものではなく、リプリーが殺したフィリップの持ち物です。映画の前半、フィリップの部屋のクロゼットでこのジャケットを見付けたリプリーは、吸い寄せられるようにジャケットを身に着け、フィリップに非難されます。この時にリプリーは、フィリップを殺して、彼に成り代ることを決断したのではないでしょうか。
ここ数シーズン、ドレスクロージングは英国調が顕著ですが、春の新作にリプリーが魅せられたジャケットに似ているモデルを発見しました。イタリアの人気ブランド、「タリアトーレ」のストライプブレザーです。ストライプの生地、金ボタンの仕様、肩パッドを省いた軽やかな仕立てなど、これを着ればあなたもリプリーのような伊達男になれるはずです。
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