ポップアートの旗手、アンディ・ウォーホルが、ファッションアイコンだった理由。
文:小暮昌弘(LOST & FOUND) 写真:宇田川 淳 スタイリング:井藤成一第5回 「ベルルッティ」のローファー
誰もが15分なら有名人になれる。いずれそんな時代が来るだろう——ポップアートの旗手、アンディ・ウォーホルの有名な言葉です。1960〜80年代に大活躍したウォーホルは、キャンベル・スープ、マリリン・モンローなどの作品で知られ、20世紀を代表する巨匠のひとりと言われています。絵画だけでなく、音楽や映画などのプロデュース、雑誌まで発刊するなどマルチメディアアーティストの先駆けとなった人物です。また、ウォーホルはファッションアイコンとしても知られ、多くのパーティやイベントで撮られた写真が残されています。意外にも着こなすアイテムはベーシックなデザインの名品ばかり。ボタンダウンシャツ、ジーンズ、ローファーなどが、銀髪のかつらをかぶった彼の手にかかると、まるで彼の作品のような斬新で、ポップなアイテムに見えてくるから不思議です。そんなアンディ・ウォーホルが愛した名品をひも解いてみましょう。
「ベルルッティ」はフランスの至宝とも呼ばれるシューズブランドです。創業者はイタリア出身のアレッサンドロ・ベルルッティで、彼がパリにスゥ・ムジュール(ビスポーク)の靴工房を開いたのが、1895年。ウィンザー公、ジャン・コクトー、エディット・ピアフ、フランソワ・トリュフォーなど、世界中に多くの顧客を抱える老舗です。この老舗に「アンディ」と名付けられたローファーがあります。原型はもちろんアンディ・ウォーホルが「ベルルッティ」にオーダーしたローファーです。
1962年、「ベルルッティ」の顧客であったフランスのデザイナー、イブ・サンローランに連れられてウォーホルがこの老舗を訪れました。応対したのは、4代目の当主であったオルガ・ベルルッティ。彼が注文した靴は1年後に完成しますが、オルガがウォーホルのために採用した革には欠陥がありました。片方の靴のアッパーに引っかき傷が入っていたのです。オルガはウォーホルに「有刺鉄線で身体をひっかくのが好きな“気の強い”牛のもの」と説明しましたが、すぐにこの靴が唯一無二のものであることを感じ取ったウォーホルは、「これからは気の強い牛の革からつくった靴しか履かない」と答え、その靴を愛用したそうです。
後年この靴を原型にしたモデルが復刻され、彼のファーストネームである「アンディ」がモデル名になりました。つま先の長いロングノーズの流麗なシルエットが、「ベルルッティ」が生み出した「ヴェネチアレザー」の美しさと相まって、この靴にしかない、エレガントな雰囲気を醸し出します。
問い合わせ先/ベルルッティ・インフォメーション・デスク TEL::0120-203-718