50年の軌跡を振り返った、マーガレット・ハウエルの服づくりへの真摯な想い

50年の軌跡を振り返った、マーガレット・ハウエルの服づくりへの真摯な想い

文:佐野慎悟

マーガレット・ハウエル●1946年、イギリス・サリー州生まれ。オーセンティックなリアルクローズをベースとした、上質なレディ・トゥ・ウエアコレクションを70年から展開している。近年は独自の感性でセレクトしたホームプロダクトなどもショップに揃える。Photo: Ellen Nolan

イギリスを代表するファッションブランドのマーガレット・ハウエルは、昨年2020年に創設50周年を迎えた。1970年の創業以来、デザイナーのマーガレット・ハウエルは、今日まで一貫して、クオリティと着心地にこだわったシンプルなリアルクローズをつくり続けている。

「若い頃は明日なにが起こるかを考えたりしないものです。日々忙しく楽しみながら仕事をして、気づけばもう50年。そんな感じです」と、オンラインでインタビューに応えたハウエル。

性別も年齢も、国籍も人種も問わず、誰のライフスタイルにもしっくりと馴染むマーガレット・ハウエルのワードローブ。控えめなデザインながら上品さと清潔感が漂い、毎日のように愛用したくなる。

「ずっと変わらずここまでやってきました。私はファッションデザイナーではなくクロージングデザイナーだと思っています。洋服は常に、明確な目的のために生まれます。直感に従って適切な素材や色を用途に合わせて使うこと。それを常に心がけています」

彼女が選ぶ生地とその色は、どこか懐かしくもありモダンで、そして生活の中に溶け込んでいくような、自然な風合いだ。

「昔から、上質なモノづくりを続けるイギリスの伝統的なブランドへの憧れを抱いていました。しかしそういったクラシックなブランドの服は、ときに重く、硬く、必ずしも着心地のいいわけではありません。だから私は、それをもっと軽く、やわらかく、自分が着たいようにアップデートさせていきました」

長い年月をかけて磨かれてきた上質な素材やスタイルを、現代の価値観に照らし合わせて再解釈していくことで、タイムレスな魅力はまた、日常生活の中で花開く。

ブランド創業当時の70年代に製作した上質なコットン地のピンストライプシャツ。50周年を記念して発売された今回の限定シャツはこのシャツをベースにつくられた。

50周年を記念して5月15日から開催されているエキシビションでは、ハウエルのデザイン画や彼女が撮影した写真など、クリエイションの源ともいえる品々が多数展示される。Photo: Tetsuya Ito

1978年に撮影された、マーガレット・ハウエルのアトリエの風景。この場所を借りる前は、自宅のベッドルームで製作活動を行なっていた。Photo: Margaret Howell

ハウエル自身のスタイルが凝縮されていると語る、古いポストカード。オーバーサイズのコートや、ボタンを留めずにベルトを締める着こなしなど、なに気ないディテールがいまも新鮮に映る。

手織りのハリスツイードや不規則にスラブの入ったアイリッシュリネンなど、イギリスの伝統的な素材を70年代から変わらず使っているハウエル。硬く、重くなりがちな素材を、現代的に再解釈する手腕も光る。Photo: Tetsuya Ito

1 / 2p
Feature Culture 海と自然へのオマージュと、伝統を超えるロイヤル コペンハーゲンの新たな感性
Feature Culture 海と自然へのオマージュと、伝統を超えるロイヤル コペンハーゲンの新たな感性