写真:宇田川 淳
Vol.25 デザインは北欧デンマーク、生産はインド。モノづくりを語りたくなるストール「ÉPICE」を、自分用にも贈り物にも。
マフラーやストールなどのことを、ファッション界では総称して “巻きもの” と呼びます。この首に巻く巻きものを、ちょっとこだわって選んでみよう、というのが今回の提案です。理想とする巻きものの条件は第一に、休日の服装にも仕事着にも使える自由度があること。冬の装いのアクセントになる華やかさもほしいところです。そして、オトコ心をくすぐる凝ったプロダクトであり、モノづくりのストーリーを語れるもの。さらに、それがリーズナブルな(納得のいく)価格であること、買える場所も明確なこと、などと条件を重ねていくと、選択肢はグッと絞られてきます。
今回フォーカスする「ÉPICE(エピス)」は、それらの条件をすべて満たすといっていい、優れたストールブランドです。設立はフランス・パリで、デザインはデンマークで行われ、生産地は手織りや染色の伝統があるインドです。おもにユニセックスでバリエーション豊富、男性の服装に最適なものも用意されています。日本では東京・南青山に直営店があり、購入しやすいのもメリットです。
直営店やデザイナーのアトリエ、インドの工場などは次ページ以降でお届けするとして、まずは2017年秋冬に入手できる(17年12月上旬現在)なかから、イチ押しのチェック柄ストールを紹介しましょう。長方形のコンパクトサイズで、かさばらずにサッと首に巻けます。室内で暑い時に外し、鞄の中にしまっても場所を取りません。多色使いが派手なようですが、実際に巻いてみると意外なほどしっくりと男性の顔に馴染みます。アメカジのネルシャツのような表情があるからでしょう。掲載のものは暖色(赤系)と寒色(青系)の2タイプ。どちらを選んでも、ネイビースーツやベージュのコットンコートといったビジネスウェアにもフィットします。凹凸のある複雑な織りに高級感がありながら、価格は¥14,040(税込)と、わりとお手頃。季節柄の贈り物にもぴったりな一枚です。
次ページでは、より繊細で優雅なストールを2型ご紹介します。
パリと東京に直営店をもつÉPICE
さらっとなめらかな風合いがドレッシーなストールも、ウール100%。緻密な仕上がりで、シルクスカーフのように艶やかな使い方ができます。横幅は、先に掲載したものより広めです。シックなチェック柄がグラデーションを描き、エッジの生地耳(セルビッジ)のオレンジや黄緑がアクセント。いわゆるマフラー巻きをした時、この色が縦に流れるラインをつくり、首まわりにシャープな印象を与えます。使ってこそよさがわかる工夫があるのも、ÉPICEの個性です。
ストール(80×190cm)各色¥18,360(税込)/ともにÉPICE(エピス 青山 TEL 03-6427-2385)
続くネイビーとグレーのストールは、ÉPICEのコレクションの中で最上級の特別な品です。昔ながらのアナログな機織り機を使い、カシミア100%の糸を手作業で織ったものです。繊細の極みのような一枚で、極薄に仕上げられ、その薄さは曇りガラスのように風景が透けて見えるほど。手仕事特有のムラがあり、布好きにはたまらない風合いです。“ほっこり” ではなく、都会的に仕上がっているのがクール。ÉPICEならではの洗練されたセンスに裏付けされた逸品です。
ストール(70×190cm)各色¥44,280(税込)/ともにÉPICE(エピス 青山 TEL 03-6427-2385)
パリ・東京の直営店。
ÉPICEは1999年に、デンマーク出身のデザイナー2名がパリで設立したブランドです。2010年、パレ・ロワイヤル庭園内に初の直営店が誕生しました(上の写真)。17年春には日本のユニクロとコラボして花柄の図案を提供し、アイテムがグローバル展開されて評判を呼びました。知名度も上がり、デザイナーズ・ストールというジャンルの発展への貢献に期待が寄せられています。
ÉPICE Palais Royal
27-28, Galerie de Montpensier, 75001 Paris
TEL : 01-42-96-68-26
営業時間:11時~19時
定休日:月、日
www.epice.com
東京・南青山の路地裏に佇む直営店です。2014年にオープンしました。ÉPICEは百貨店やセレクトショップでも取り扱われていますが、豊富なラインアップの中から自由に選びたいなら、この店に足を運ぶのがいいでしょう。シーズンコレクションのみならず、定番的なものも多数取り揃えられています。Tシャツやバッグなど多色使いのテキスタイルを応用したアイテムもあり、彼らの幅広い世界観を存分に味わうことができます。
ÉPICE 青山店
東京都港区南青山5-11-22
TEL:03-6427-2385
営業時間:11時〜20時
不定休(イベント開催時は休業)
www.epicejapon.com
手仕事が息づく、デンマークのアトリエ、インドの工房。
製品のデザインチームを率いるヤン・マッケンハウアー(上の写真)は、デンマークのコペンハーゲンにあるアトリエで働いています。彼は、同じくデンマーク出身でパリ在住のアートディレクター、ベス・ニールセンとともにÉPICEを設立しました。北欧の自然界にインスパイアされたコレクションは、色彩が重要な意味をもちます。入念に構想を練ったのちに、彼はストールを現実の形にするため、インドへ旅立ちます。
ヤンが率いるデザインチームは不透明水彩絵具(ガッシュ)を使い、シーズンごとに約100色のオリジナルカラーをつくります。染色のデザインや配色では色見本を用いるのが一般的ですが、彼らは微妙なニュアンスを追求するため手作業で色を生み出します。ÉPICEのストールに、織りにせよプリントにせよ豊かな色の調和と深みが備わる背景には、ヤンたちの旧式ともいえる地道な仕事のプロセスがあるのです。
インドの現地にやってきたヤン・マッケンハウアー。シルクスクリーン・プリントの原版をチェックしています。彼は数週間をインドで過ごし、納得がいくまで制作を繰り返します。
何層にも色版を重ねることで、奥行きのある色彩の生地が出来上がります。きっちりと厳密に仕上げる西洋とは異なる、絶妙なかすれやビンテージ風の味わいを表現できるのがインドのモノづくりの魅力です。
織りによるストールの制作のために染色された糸の束。水彩絵具で考案された色が糸になり、これを時間をかけてゆっくりと織ることで、ÉPICEの製品が完成します。
今回のファッション連載「着る/知る」は、価値あるストールブランドにフォーカスしました。ふだんなにげなく巻くストールにも、奥深いストーリーがあることをおわかりいただけたと思います。デリケートな仕上がりのÉPICEは、固く織られたマフラーのような頑丈なプロダクトとは異なります。ラフな取扱いには不向きかもしれませんが、傷や汚れも味わいになる包容力があります。デイリーに使い、身体の一部になるまで愛用してはいかがでしょうか。