写真:宇田川 淳
Vol.07 蚤の市の掘り出しモノ!? 指輪に込めたグッチの挑戦
長年使う家具や建築は、時代に左右されない普遍性が大きな価値をもちます。対してファッションは、人々が常に新しさを求め、ブランドはその期待に応えようとします。何十年も続く同じ服や、永遠性のあるスタイルを最良とする考え方も特に男性に根強く、その考え方には一定の意義があるでしょう。ですが、服装が時代に即した生き方や文化とダイレクトにリンクするには、“創造” が欠かせません。世界のハイブランドは、“保守”と“革新”のバランスを取りながら、世に新たな道を示す方法論を探っています。
100年近い歴史をもつ「グッチ」は現在、こうした変化に挑み、大きな注目を集めているブランドです。クリエイティブ・ディレクターにアレッサンドロ・ミケーレが就任してから、ラグジュアリーの概念を一変させるスタイルを提案するようになりました。
キーワードの一つは、男女の性差をなくす「ジェンダーレス」発想。男女に同じような色柄の服を着させ、従来のオトコらしさやオンナらしさといった捉え方を過去に追いやりました。このグッチによるジェンダーレスについては、多くのファッションメディアが語っている共通認識です。
ここではもう一つ、別の視点に目を向けてみましょう。それは、グッチが社会階層における服装の違いをもなくそうとしていることです。その一例が、ここにご紹介しているメンズジュエリーのシリーズ。「コスチュームジュエリー」と呼ばれるジャンルで、貴石などを用いずに普段使いしやすくしたジュエリーです。
アレッサンドロ・ミケーレは得意とする70年代のテイストに、ヨーロッパの蚤の市の掘り出しモノのようなヴィンテージの風合いを加味させて、新しいアクセサリーのラインをつくり上げました。彫刻のように凝った造形でありながら、デニムやTシャツなどの昔でいう労働者スタイルにも合わせやすくなっています。
さらにドレスアップでスーツを着るときでも、これらを身に付けるのがグッチ流のスタイル。「スーツのときはハイジュエリーを」という、お決まりの社会通念に従っていないのです。グッチのコスチュームジュエリーは、“エレガンス” の対極にある“ストリート” の空気をたっぷりと吸い込んだ、反骨精神のある逸品です。
誰もが対等であるべき現代のファッションにおける、贅沢、知性、時代性、楽しさ、自由、カッコよさ、それらは 一体何でしょうか? その問いの答えがここに示されているように思えてなりません。
※「コスチュームジュエリー」 = 舞台衣装(コスチューム)で使う模造品のアクセサリーが名称の由来。