スタイルを選ばない、美しいフォルム。ジェイエムウエストン「ル・モック」
ジェイエムウエストン――フランスを代表する名靴であるにもかかわらず、ブランド名が英語であることを不思議に思った人はいないだろうか。その名前は創業者の息子が修業に赴いた、アメリカ・マサチューセッツ州のウエストンという街の名前に由来している。
歴史を遡ろう。ジェイエムウエストンの誕生は1891年。創業者エドゥアール・ブランシャールがパリ郊外のリモージュで起業した。やがてこの会社に創業者の息子ユージェーヌが加わり、アメリカで行われていた近代的な靴の技術のグッドイヤーウェルト製法を学びに大西洋を渡る。マサチューセッツ州は靴の産地としての歴史をもち、いまでもファクトリーが残る地方だ。技術を学んだ町の名前をブランド名にして、老舗は1932年、パリのシャンゼリゼ通りにブティックを開く。
いまでも名品の誉れ高い「180 シグニチャーローファー」が誕生したのが、46 年。グッドイヤーウェルト製法を採用しながらもほかにはない独自のシルエットはパリジャンをはじめ、世界中から圧倒的に支持を受けた。60年代、シャンゼリゼ通りのドラッグストアにたむろする若者たちは、既存の秩序に反抗してジーンズと組み合わせて、素足にこのローファーを履いた。日本でも正式輸入される前からフレンチトラッドのアイコンシューズとして誰もがこの靴に憧れた。
名品の美しさを継承する、カラフルなモデルが誕生。
そのローファーからインスピレーションを受けて2015年、「ル・モック」がデビューする。デザインしたのは、01年からアーティスティックディレクターを務めるミッシェル・ペリー。名靴のDNAを受け継ぎ、軽く、柔らかで、しかもカラフルに進化させたのだ。
カーフ素材のグレインレザーやカシミアのような滑らかなスエードを使い、この春の新色(ピンクスエード、ブラック)を加えて全8色の展開。通常よりも0・5㎝深く設定されたかかと部が足を常に正しい位置に固定し、ホールド感も向上した。製法もシグニチャーローファーが伝統的なグッドイヤーウェルト製法を採用しているのに対して、ブレイク製法を用い、柔軟性をさらに向上させている。
製法だけではなくデザイン的にも進化を見せる。一番の特徴が「アンクルボーダー」と名付けられた履き口だ。アッパー素材と異なるカラーが採用されたものもあり、デザイン上のアクセントになっているだけでなく、着脱時のダメージを防ぐ効果も備える。甲部のストラップも柔軟性と履き心地を考え、上下部にステッチが施されていない。ストラップのサイドに入る「W」のステッチもシグニチャーローファーとは異なるデザイン。中敷が全面に敷かれ、素足で履いて心地よいのもローファー好きには嬉しい。ソール全体がナチュラルカラーで統一され、ローファーに軽やかな印象をもたらすことに成功している。底も部分的にラバーを貼って滑りにくくしてあり、ヒールもカジュアルさとリラックス感を出すために1・5㎝低く設定。各所にミリ単位の修正を加えて完成されたものだが、美しいフォルムはさらに研ぎ澄まされた感が漂っている。
夏の上品なスタイルに似合うサマーローファーとして、名品を再解釈した「ル・モック」。時代に左右されない普遍性と洗練されたリラックス感を湛え、アイコンともいえる「180シグニチャーローファー」同様に、名靴になることは確実だ。
●問い合わせ先/ジェイエムウエストン 青山店 TEL 03-6805-1691