モードブランド、ジル サンダーの世界観を知るなら、彼らのインスタグラムを閲覧するのが近道だ。広告に使われるビジュアルやムービー、ファッションショー関連の写真を一望できる。静寂な風景と端正な人物とが交互に登場して奏でるハーモニーは、詩や音楽のごとくリズミカル。ここには派手に着飾った様子も、露骨に性的な表現もない。きらびやかなファッショニスタもおらず、クリエイティブ・ディレクターを務めるルーシー&ルーク・メイヤー夫妻の姿さえほぼ見られない。あるのはふたりが生み出す知的なクリエーションと、独自の目線のみだ。バズ狙いのSNSに熱心な他ブランドとは一線を画す姿勢が小気味いい。
服のデザインでも現代アートのごときミニマリズムを貫くメイヤー夫妻がこのたび、ファッションデザイナーをキュレーターに迎えるベルギーの雑誌『A MAGAZINE curated by(エー マガジン キュレーテッド バイ)』の最新号である第21号にゲストとして選ばれた。夫妻は「自然界と、人によってつくられた現代社会」という相反する要素の相乗効果を表現することをコンセプトに、2019年7月から編集作業を進めた。
全240ページのうち写真が200ページを占め、キャプションを含む文章は巻末にまとめられた。雑誌でありながら写真集のような体裁である。写真の背景は、カナダの大自然、スイスのアルプス、パリやフィレンツェの街路など。内容はファッション写真、人物ポートレート、美術作品、アーティストのアトリエ、家族が描いたパーソナルなイラストなど多岐にわたる。表紙に採用されたのは、日本の能登半島の製紙業者が手づくりした花模様の和紙を、3Dスキャンした写真。「侘び寂び」に通じる夫妻のセンスが、この表紙からも感じられるだろう。
本号の取り扱いは世界30カ国のアート書店をはじめ、国内では6月上旬から¥2,750(税込)でジル サンダー直営店や公式サイトでも販売される。年内には花模様を白に変え、ジル サンダー製のタッセル紐をしおりとしてつけた限定200部の特別版もリリースされる予定だ。いますぐ通常版を入手するか、特別版の登場を待つかがファンの悩みどころになりそうだ。
ジル サンダー公式サイト
www.jilsander.com/ja-jp
ジル サンダー 公式インスタグラム
www.instagram.com/jilsander