明日"米寿"を迎えるジョルジオ・アルマーニ、カルチャーとともに帝王の功績を振り返ろう
「本当のエレガンスとは仕草です。ルックスではありません」。これは「マエストロ・ディ・マエストロ(巨匠中の巨匠)」「モード界の帝王」と称されるデザイナー、ジョルジオ・アルマーニの言葉だ。ご存知の方も多いと思うが、彼の経歴を簡単に触れておこう。1934年、北イタリアのピアチェンツァで生まれたアルマーニは、ミラノ大学の医学部に進むが、在学中に自身の才能を開花させられるのは医学ではない、と気がつき大学を中退。その後50年代から有名百貨店でファッションでのキャリアをスタートさせる。70年代からフリーのデザイナーとして活躍した後、自身の名を冠したジョルジオ アルマーニを立ち上げたのが1975年。
彼の代名詞とも言えるのが、いわゆるソフトスーツに違いない。伝統的なメンズジャケットの“構造”を解体し、再構築、柔らかな素材とイタリアならではの職人技で、芯地のない「アンコンストラクテッド」のジャケットを世に送り出した。それはドレープが美しく、エレガンス。なおかつ快適に着回せる革新的なジャケットだった。90年に巨匠マーティン・スコセッシが監督を務める、アルマーニの足跡を追った映画『Made in Milan』では彼がジャケットから芯地を取り去り、デザインを仕上げている様子が描かれている。このジャケットはファッション感度が高い男性だけでなく、それまで英国調のスーツを着ていたニューヨーク・ウォール街のエグゼクティブたち、あるいは仕事でジャケット着用する必要があった世界中の女性=キャリアウーマンからも絶大な支持を得た。モードはパリ、とそれまでの常識を覆した80年代以降のミラノファッションの隆盛はアルマーニなくして考えられない。
1980年に公開された映画『アメリカン・ジゴロ』では主演のリチャード・ギアが彼のスーツやジャケットを見事に着こなし、スター俳優へと駆け上った。ジョルジオ アルマーニのスーツを着ることは成功の証、ある意味彼のつくったスーツは社会現象を巻き起こした。
【関連記事】ジョルジオ・アルマーニと安藤忠雄が、ミラノで『Tadao Ando. The Challenge』展を開催中です。
先週、ジョルジオ アルマーニの2022年SSコレクションの最新情報を得ることができた。今回のコレクションでは「原点への回帰」を謳い、「構築的な束縛から解放される服、無頓着さというよりもノンシャランとした考え、進歩の証しとしてクラシックへの回帰を改めて探求します」とアルマーニは書く。
そのコレクションで披露されたのは、レディスを含む全63ルック。彼の真骨頂のネイビーのダブルブレスのジャケットやカラーレスのジャケットやオールホワイト、オールネイビーのセットアップが秀逸な出来栄え。シャツやジレ、ジャケットなどと組み合わされたバミューダショーツはアルマーニのコレクションではマストなアイテムだろう。時代が求めるスポーティさや新しさを加えながらも、 “アルマーニ節”は健在どころか、さらに進化を遂げている。それはジョルジオ アルマーニという存在がモードそのものであることの証明にも思える。
明日7月11日、ジョルジオ・アルマーニは日本流に言えば、数えで"米寿"にあたる87歳を迎える。かつて「妥協したことは一度もありません」と語った彼のデザイン姿勢は歳を重ねてもまったく変わっていないと感じた。そんな彼に最大級の賛辞を贈りたい。