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世界からアクセスされる、
日本生まれの服づくり。
テレビの経済番組をよくご覧になる人なら、山田敏夫が代表を務めるファッションブランド、「ファクトリエ」をご存じだろう。山田を大きく取り上げた2016年放映の「カンブリア宮殿」が印象的だった人もいるはずだ。誕生から数年のファクトリエが一般メディアで注目される理由は、山田が立案した独自のコンセプトにある。
「世界に名だたる日本の一流工場と協業し、高品質のベーシックアイテムをリーズナブルに提供する」、それが基本的なコンセプトだ。山田は、生産工場の名前を打ち出す、ほかに例のないブランドをつくった。
洋品店を営む実家で育った彼が、ファッションの原体験を語った。「高校、大学の時、服ってなんだろう?と考えました。年配のお客様が多い実家の店番をやりながら気付いたのは、いい服を着ると人は笑顔になるということ。服には着る人に自信を与え、明日を変える力がある。みんなが幸せになれるツールとして、僕の目に見えたのが服だったんです」
山田は世界を旅して、日本製品への信頼性の高さを知った。会社勤めを経て、ひとりで起業。全国500もの工場に足を運び、50社と提携。繊維業界の慣習である、商社や卸先に払う中間マージンをなくしコストを抑え、高品質でありながら手頃な価格で消費者に届ける仕組みをつくった。目指したのは、「日本のクラフトマンシップに基づく世界一流のブランド」。日本製という信頼できる高級品を揃えたブランドにするのが目標だ。販売は低コストで運営できるネット通販のみ。そんな山田に一般メディアが飛びついたのは、安い海外での服づくりが増え衰退した日本のアパレル工場を束ねて仕事をもたらす彼のやり方に、この国を発展させる新しい産業の息吹を感じ取ったからだ。しかし山田は言う。
「重要なのは、ファクトリエが100年、200年と続く確かなブランドになること。日本の産業を救うなどはおこがましいです。大量生産品の分野で世界に対抗できない日本は、ブランドや企業のそれぞれが独自に輝くことしか道が残されていないと思います」
確かな品質のアイテムを求め、世界中からウェブサイトにアクセスされるファクトリエ。他業種の大企業との結びつきも増えてきた。よく話しよく笑い、謙虚で人の意見に真剣に耳を傾ける山田の周囲は、これからも騒がしくなるに違いない。
「流通の最後まで自分たちで」とのポリシーで運営する販売サイトでは、製品の優れた機能性、製造工場の特徴まで細かく説明している。
ファクトリエの名前の由来は、工場(ファクトリー)が集まる場(アトリエ)から。「長く続けるには、工場の安定稼働が欠かせない」と、彼らとの関わりを大事にしている。