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最新技術を駆使して挑む、次世代のオートクチュール
一流の職人が手縫いで刺繍や縫製の技を駆使し、一点モノの服を仕立てるオートクチュール。フランス・パリの伝統的な服飾文化であり、モードの頂点に位置するが、現在はファッションが好きな人にさえだいぶ縁遠い存在になってしまった。この現状に果敢に切り込む日本人が、中里唯馬だ。
「ブラック・アイド・ピーズのファーギーなど、ミュージシャンの衣装を手がけた経験から、一人ひとりと対話を重ねてその人の身体と気持ちに合う服をつくる楽しさを知りました。そのジャンルの最高峰が、オートクチュールなのです」
『パリ・クチュール組合』に認められ、目覚ましい活躍を見せる中里。しかしいま彼が見つめるのは、高級、一点モノとは真逆の世界だ。
「20世紀型の大量生産服と、オートクチュールとを融合させたい。コストを抑え、既製服のように誰もが手に入れられる注文服を実現したいんです」
中里は約2年間、パリ・オートクチュール・ファッションウィークで4回にわたり作品を発表し、コンセプトを突き詰めた。作品は3Dプリンターやレーザーカッターといった最新技術でつくった素材を小さなパーツにして、針と糸を使わずパズルのように組み立てた。その組み方次第で、さまざまなリクエストに応じた特別な一着が完成する。縫製のためのミシンも必要なければ、制作に特殊な技術もいらない。低コストでつくれる、まさしく大衆のためのオートクチュールだ。
「自分だけの大切な一着、いわば“情緒のある服”は、いつまでも長く着ることができるでしょう。体型が変わったり飽きても、簡単に仕立て直せる服をつくりたいのです。着物のように、母から娘に受け継がれるような服を。もちろん、パリのオートクチュールに対する深いリスペクトもあります。だからこそ、このジャンルを未来へつなぎたいのです」
彼が生み出した服には、彫刻家の両親のもとで育ち、一点モノをいつも身近に感じてきた中里ならではの深い想いがあるのだ。一般の人に向けたこの新しい取り組みが実現する日も、そう遠くはないと言う。
「店舗でお客様と対話しながら、そこですぐに仕立てができるような新しいシステムを考えているんです」
この新たなオートクチュール、実現すればファッション界に一石を投じるものになるに違いない。
初めて衣装デザインを手がけた、「ブラック・アイド・ピーズ」の女性ボーカル、ファーギーのデザイン画。仕掛け絵本のように、衣装の正面が立体的に飛び出す。
2018年の春夏コレクションより。宇宙服がテーマで、素材はパラシュートなどのリサイクル。パーツを組み替えてカスタマイズできる。photos:Shoji Fujii