シンガポールの市街地中心部から車で20分ほど、閑静で気取りのない郊外の住宅地に建てた自邸。細長の敷地に足を踏み入れると、下方にオープンエアの大きなバルコニーが広がる。先にはスイミングプールも!「ここは現代風カンポンハウス」(カンポンとは、マレー語で集落の意味)だとオーナーのヤン・ヤオが語るように、周囲に開かれた風通しのよいダイナミックな空間が心地よい。この住宅は昨年、同国の建築学会の最高賞を受けた評判の建築だが、実はヤンとその妻のチンアン・ウィーのふたりが一緒にここで居住するのはまだ数カ月ほど。チンアンは単身赴任していた上海から5月に帰任したばかりだ。
クリエイティブ・ディレクターとして数々の広告・デザイン賞を受賞、現在は日本の広告代理店のコンサルタントとして活躍するヤンと、仏系大手広告代理店のアジア・パシフィックのCEOとして各国のマネジメントチームを統率するチンアン。同業界に身を置くが、クリエイティブとマネジメントと、ふたりの仕事は大きく異なる。
「彼女の仕事のほうが僕よりも大切だから」と笑うヤン。娯楽室として使用していた部屋が、チンアンの帰任と同時にホームオフィスに。この部屋を占拠するのはもっぱらチンアンのほうだ。「典型的な夜型なので朝はギリギリまで寝ている」という彼女は起床と同時に仕事を開始、異なるタイムゾーン地域とのミーティングも多いために、ほぼ終日デスク前に拘束され仕事に忙殺される日々だ。
対照的に早起きのヤンは、目覚めるとバルコニーに降りて早朝のひと時をゆっくり過ごし、ターメリックティーを飲む。朝食は必ず取り、ミーティングやプレゼンの合間にはガーデニングを楽しみ、プールに飛び込む。この4年間、自宅をメインとしたノマド的なワークスタイルを実施してきているので、自邸空間を謳歌しつつ、マイペースなテレワークのスタイルがすっかり身についている印象だ。
「もちろん、皆で一堂に会してものをつくるプロセスはなににも替えがたいが、家のトイレにいてもインスピレーションは湧くし、どこでも仕事はできる」と夫が言えば「月に3、4回は出張する日常、ずっと家に閉じ込められているのはストレス。新しい楽しみを見出すことがチャレンジ」と妻。自邸のガーデンでハーブを育てる喜びを知ったのは意外な発見だとか。
空間をシェアしながらも異なる時間、スタイルで働くという夫婦のテレワークの心地よい日常が出来上がってきているようだ。