敷地面積は約30㎡! 超ミニマムな住宅ならではの豊かな暮らしとは?

  • 写真:大河内 禎
  • 文:植本絵美
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吹き抜けは最も高い所で約7ⅿにもなり、上部のトップライトから入る光が、室内にさまざまな影を描き出す。袖壁や段差によって、ワンルームの空間をゆるやかに区切っている。右手の壁の後ろが玄関で、そこに棚を設けて300枚のレコードを収納している。

「6坪(約20㎡)は、2人暮らしには広い」。妻の保坂恵さんの発言に、建築家の保坂猛さんは驚いたという。当時住んでいた自邸は、2005年に設計した2階建て、広さ約38㎡の「LOVE HOUSE」。10年暮らし、事務所を東京に移転するのをきっかけに、2回目の自邸「LOVE2 HOUSE」を計画した。

坂の途中にある敷地は、長屋の名残を感じさせる場所で、敷地面積は約30㎡。当初は2階建てを検討していたが、恵さんが本で江戸時代の庶民の長屋は9尺2間(約9.6㎡)でそこに4人家族が住んでいたことを知り、前述の言葉を口にしたのだ。

再度、練り直した平屋のプランはダイニング、キッチン、寝室が連なるワンルーム。延床面積は18.84㎡。風呂はなんとテラスにある。シャワー派だった恵さんは「露天風呂の気持ちよさを知って、いまでは毎日入っています」と笑う。

さらに驚くことに、住まいの中には300枚ものレコードがある。「小さいからといって、なにも持たないミニマリズムなのではなく、いろんなものが“ある”空間にしたかった」と猛さんは言う。

小さな家に不安がなかったわけではない。しかし「引っ越した翌日、目を覚ますと、トップライトから見える雲の動きに目を奪われた」と恵さん。トップライトは、空間を広く感じさせるだけでなく、都会に自然があることも教えてくれた。「LOVE2 HOUSE」は、面積では推し量れない豊かさがあることを示す狭小住宅なのだ。

間口約2.5ⅿの細長い敷地に立つ「LOVE2 HOUSE」。前の道路は私道で、開口を大胆に設けている。前を通る子どもが興味深そうに見に来ることもある。屋根はゆるやかな曲面だ。

テラスにはコンクリートでバスタブを設えた。隣接するマンションから見えるので、普段はタープをかけて使用する。「露天風呂付きの客室みたい」と恵さん。室内にはテラスの隣にシャワーブースもある。

キッチンは1段上がっているので、トップライトからの光もあいまってステージのよう。恵さんはキッチン、猛さんはダイニング角の席がお気に入りの場所だ。

袖壁の表面にあえて設けた小さなエッジが、ちょっとした小物置き場や、ディスプレイスペースとして活躍。