もしも海岸沿いにグスクがあったならば──。沖縄本島での開業地を長年探していた星野リゾートが、「奇跡的に残っていた」という沖縄の原風景にインスピレーションを得たところから「星のや沖縄」の構想が始まった。そもそもグスクがなにであったかは、聖域や有力者の居城、集落など諸説あるが、石や石壁によって囲い守られた場所であり、そこで琉球の生活や文化が育まれていたことをうかがい知る。浮かび上がったコンセプトは、「グスクの居館」。豊かな琉球文化を守ってきたグスクの中で暮らす。そんな唯一無二の世界観をつくり上げ、読谷村(よみたんそん)の自然海岸沿いに、待望の開業を果たした。
琉球の礼装をモチーフにした制服を纏ったスタッフに迎えられ、最初に足を踏み入れるのは、深海のような紺碧に包まれたレセプション。威風堂々たる構えの壁を目の前にした途端、古のグスクの世界へと引き込まれる。
緑豊かな果樹園や畑が広がる敷地内には、約1㎞におよぶ細長い海岸線をなぞるように低層階の客室棟を設け、周囲の自然環境に溶け込むようなランドスケープを成している。あえて人工的なビーチ開発はせずに、南国の植物が自生する自然のままの浜を残した。
南国の植物が自生する、自然のままのビーチがいい。
客室は、海への近さを存分に感じられるつくり。大きな窓からのぞく穏やかな風景に、壁紙の紅型(びんがた)が南の島の彩りを添える。ひと際存在感を放つのは、無垢板の長テーブルが設えられた土間の空間。ここに集えば話に花が咲き、ギャザリングサービスの豪華な料理が並べばプライベートダイニングに……と、特別な海辺の暮らしという願望を叶えてくれるというわけだ。
さらなる口福を味わうなら、シチリア料理の技法で沖縄食材の魅力を引き出した「琉球シチリアーナ」を提供するダイニングへ。タンカンソースの酸味と海ぶどうの食感をアクセントにしたアンティパストに始まり、琉球王国の宮廷料理に使われた「東道盆(とぅんだーぶん)」をモチーフにした器に華やかに盛り付けられた前菜……。次々と展開される美味なサプライズが陶酔を誘う。
海に向かって開かれたインフィニティプールでは、日中はもちろん、サンセットを正面に見る夕暮れ時も、満天の星に包まれる夜も、沖縄の海・空・風と一体になる感覚に、心も身体もほぐれていく。浜辺での乗馬や琉球空手などに興じるのも贅沢な時間だ。
ここには時計とテレビがないが、敷地の外に出かけなくても、沖縄の豊かさと温もりが、不思議なほどに心を満たしてくれる。忙しい現代人には、圧倒的な非日常に身を置き、リセットする時間が必要なのだろう。また帰ってこよう、海辺の我が家に。
※Pen2021年2/15号「物語のあるホテルへ。」特集よりPen編集部が再編集した記事です。
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星のや沖縄
沖縄県中頭郡読谷村字儀間474
TEL:0570-073-066
全100室 フゥシ¥132,000(税・サービス料込)〜、ハル¥132,000(税・サービス料込)〜
アクセス:那覇空港からクルマで約1時間
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