学校や駅、スタジアムなど人が集う場所の感染症対策は重要。距離を知らせるサインや紫外線を用いるアイデアなど、パリとアムステルダムの事例が話題だ。
セーヌ川の波を目印に、距離を保って街を安全航行!━━ソーシャル・ディスタンスのためのサイン
路面に描かれた白やブルーの波。シンプルでいて、どこか微笑みを誘うデザインが昨年5月、パリの街なかに登場した。マスク着用も日常化していなかった当時のパリで、最初に取られたコロナ感染対策はソーシャル・ディスタンス。この波形は、人との距離を取ることを促すサインだ。手がけたのは、デザイナーズユニット「スタジオ5・5」。パリ市から、このデザイン公募の知らせを受けたのは4月初めだった。
「ロックダウンで生活が激変した時でした。パリジャンのひとりとして、日常を少しでもよいものにできるならとやる気になった。この重苦しい時代に、誰にでもわかりやすく楽しいものが求められていると感じました」とスタジオ創始者のひとり、ヴァンサン・バランジェは言う。「最初は、もっと機能的なものがいいのだろうかとも考えた。でも、いま必要なのは詩的なものや物語だろう、と」。そこで浮かんだのが、セーヌ川を航行する帆船を描いたパリ市の紋章。人の流れをコントロールする目的、パリらしい船の航行、パリのグラフィックの歴史を踏まえた市の紋章から発想した、セーヌの波だ。「ひと言で言えば、『僕らの街を安全に航行しよう』というメッセージです」
デザインは白とブルーの波形のラインだけと、きわめてシンプル。故に学校や商店街、駅、市場など、さまざまな場所に対応できる。市はステンシル用のキットをつくり、20の区役所に配布。最初のテスト運用では、4区と19区の小学校が選ばれた。「パンデミックという深刻な問題にユーモラスなデザイン?と躊躇されもしたが、運用後の反応は温かかった」とバランジェは振り返る。波のマークを利用して、子どもたちが遊ぶようになった。市内にあるふたつの屋外市場では、開催日以外にも市場の場所を告知できるサインとして、このデザインを取り入れた。きっかけは感染症対策でも、詩的で笑顔を喚起するデザインは、必要な時期が終わった後も残っていくのだろう。
※Pen2021年5/1号「コロナの時代に、デザインができること。」特集よりPen編集部が再編集した記事です。
変形する光のラインで、 位置関係を可視化させる。 ━━スマート・ディスタンシング・ システム
人の動きに反応してかたちを変えて動く光のラインを床に投影し、ソーシャル・ディスタンスを可視化する「スマート・ディスタンシング・システム」。モーション・トラッキングとレーザー投影の技術を組み合わせて、移動する人と人との距離をインタラクティブに表示し続けるインスタレーションだ。空間やテクノロジーをテーマに制作を続けるオランダの若手アーティスト、ヨラン・ファン・デル・ウィルとニック・フェルスタンドが考案した。
人が近づくと波のかたちに変形していく線、ゆらゆらと形状を変えながら人とともに動く楕円。他にも、人とすれ違う部分の線がギザギザと波打ったり、距離を数値で表示する定規が現れるなど、環境に合わせてさまざまな表示タイプを選べる。人との距離を保つことが目的だが、互いの位置関係を可視化するコミュニケーション・ツールとも言える。駅や空港、ショッピングセンターなど、人の往来が激しい公共スペースでの実用化が期待されている。
特殊な紫外線装置で、 マスクなしでも集える環境を。 ━━アーバン・サン
社会的なテーマを可視化する啓発的なアプローチと最先端技術を取り入れた大規模なプロジェクト作品で知られるオランダのアーティスト、ダーン・ロースガールデ。彼の新作が新型コロナウイルスを不活性化する大型照明装置「アーバン・サン」だ。
これは、人の皮膚や目にはダメージを与えずに新型コロナウイルスやインフルエンザウイルスを消滅させる、波長222ナノメートルの紫外線を照射する照明装置。この紫外線を使ったウイルス不活性化技術は既に屋内用で実用化が進んでいるが、ロースガールデは、これを屋外で大規模に使用しようと考えた。この光の下では、人々が再び安心して集えるというわけだ。
先頃発表されたパイロット版は、金環日食のような光が、ウイルス不活性効果があるエリアを可視化するという造形的な演出で注目を集めた。ウィズ・コロナの未来を明るく照らす「希望」というテーマを具現化させたのだ。将来的には、街の広場や競技場、屋外フェスティバルなどでの実用化を目指している。