那須連峰の山懐、標高550mほどの森の中にリゾートホテル「二期倶楽部」が開業したのは1986年のこと。自然やアートとの共生をテーマに掲げたこのホテルは、日本におけるブティックリゾートの先駆けといっても差し支えないだろう。惜しまれつつも2017年にその幕を閉じたが、そのDNAを受け継ぐのが「アートビオトープ」だ。もともとは二期倶楽部に付属するアートレジデンスであった施設が、20年10月に全15室の「スイートヴィラ」と「レストランμ(ミュー)」を加え、新たにグランドオープンを果たした。
チェックインを済ませ、敷地の両脇を流れる小川のせせらぎに耳を澄ませながら、完全独立型のヴィラへ。設計を手がけたのはプリツカー賞をはじめ数々の受賞歴を誇る建築家の坂茂。輸入物ではなくスギやタモといった国産木材が多用された室内は、木の心地いい香りが立ち込め、ゲストを温かな気分にさせる。全面開口できる窓を開け放てば、小川に向かって張り出した木組みのテラスがリビングとシームレスに一体化。バスルームも同様、すべての窓や仕切り戸がフルオープンになり、客室のどこにいてもすぐ近くに自然が感じられるつくりだ。
石上純也が手がけた水庭と、坂茂のヴィラが調和する。
客室に置かれた名作スワンチェアや一部の家具は、二期倶楽部時代のものを那須の工房でリペアして引き継いだ。また「燦架(さんか)」と名付けられた棚にはヴィラごとに違ったアート作品が飾られ、気に入れば購入することもできる。こうした細やかな仕掛けにも二期倶楽部時代からの思いが見え隠れし、往時を知るリピーターからも好評だという。
さらに、建築家・石上純也の作品「水庭(みずにわ)」が滞在を特別なものに変える。敷地の約半分、5000坪にもおよぶ壮大なランドアートは、318本の木々とその間にモザイクのように配された160の池からなる。飛び石伝いに歩を進めると、まるで水の上を歩いているかのような不思議な感覚になるだろう。聞けば、奥に行くに従って木や池のサイズが大きくなり、散策する人の気持ちが解放的になるよう緻密に設計されているのだという。早朝の澄み切った空気の中での遊歩はまた格別で、宿泊者のみに許された静謐なひと時だ。
夜、「レストランμ」で土地に根ざしたフルコースを味わったら、ヴィラに戻ってオープンエアのバスタイムを堪能。頭上に瞬く星空が近くに感じられるのは気のせいだろうか。かつて二期倶楽部がまいた「自然やアートとの共生」という種は、時を経て、「アートビオトープ」としてその実を結ぼうとしているのかもしれない。
※Pen2021年2/15号「物語のあるホテルへ。」特集よりPen編集部が再編集した記事です。
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アートビオトープ スイートヴィラ
栃木県那須郡那須町高久乙道上2294-3
TEL:0287-78-7833
全15室 ¥145,200(税・サービス料込、夕・朝食付)
アクセス:那須塩原ICからクルマで約20分、JR那須塩原駅からクルマで約30分、無料送迎バス有(要予約)
www.artbiotop.jp