ローリング・ストーンズの2枚の最新作からわかる、彼らの「現在」と「原点」とは?
年末年始の時期になると、ここ2年ほど続けて、ロック界のレジェンドといわれるイギリスのバンド「ザ・ローリング・ストーンズ」の周辺が賑やかです。2016年の12月、ザ・ローリング・ストーンズは11年ぶりにスタジオ録音のアルバム『ブルー&ロンサム』を発表しました。アルバムには12曲が収められ、全曲がアメリカ音楽のルーツともいえるブルースのカバー曲集だったのです。
そのアルバムを聴いてまた驚かされました。全曲、その演奏が驚異的に素晴らしいのです。ミック・ジャガーは、ボーカルはもちろんですが、名うてのハーモニカ奏者であることを証明しています。また、このアルバム全体のスピード感は強烈です。ワイルドなようでいて演奏のバランスは崩れない。収録期間はわずか3日間でオーバーダビングなしだというのです。まるで、かつてマイルス・デイヴィスなどのジャズミュージシャンたちがやった一発録音のようです。
もしかして、ストーンズのアルバムとして後世の歴史に名を残すのはこのアルバムなのではないか、という人まで現れる始末。実際、この『ブルー&ロンサム』は、18年の第60回グラミー賞 ベスト・トラディショナル・ブルース・アルバムを受賞しました。
一体なぜ、アルバムはできたのか。メンバーの話を付き合わせると、このアルバムはまったく予定になかったものらしいのです。新しいアルバムをつくろうとメンバーが集まったが、調子が出なかったので、ミックがキース・リチャーズに昔から知っているブルースでもちょっとやろうかと言って演奏してみた。すると、昔馴染みの曲だから調子がいい。思わず興に乗って次々と知っているブルース・ナンバーを演奏していくと、どんどん調子が出てきた。録音したものを聞いてみるとなかなかいい。じゃ、ちょっと本気でやってみようかと。そして3日間で12曲もできてしまった。その中には、偶然隣のスタジオに来ていたエリック・クラプトンが参加した2曲もあるという。気楽な演奏から、完璧な新しい意欲的な作品となっているのです。名作が出来るのはこういう時なのでしょうか。
もともと、「ローリング・ストーンズ」というバンドの名前自体が、シカゴ・ブルースを代表するカリスマ・ミュージシャンであるマディ・ウォーターズの曲である「ローリング・ストーン」から引用されたもの。ですから、1960年代の青春時代からアメリカのブルースやジャズ、R&Bに影響を受けてきたストーンズの面々にとってみれば、マディ・ウォーターズは名付け親のようなものです。偶然にしても、ストーンズのメンバーが長年抱いてきたブルースへの愛情とレスペクトを、このアルバムに集約することが出来たということでしょうか。