ハンドメイドで世にも美しい絵本をつくる、インドの小さな出版社「タラブッ...

ハンドメイドで世にも美しい絵本をつくる、インドの小さな出版社「タラブックス」の展覧会に注目せよ。

文:内山さつき

タラブックスの代表作『夜の木』(2006年初版)。詩的で複雑な描線と見事な構図を特徴とするゴンド族の民俗画を取り入れている。

2006年に出版された一冊の美しい絵本『夜の木』によって、一躍注目を浴びるようになった、南インド・チェンナイにある出版社「タラブックス」。ギータ・ウォルフとV.ギータというふたりのインド人女性が中心となって活動しています。この小さな出版社の展覧会『世界を変える美しい本 インド・タラブックスの挑戦』が、板橋区立美術館で2018年1月8日(月)まで開催されています。

『夜の木』は、インド中央部に住むゴンド族に伝わる、聖なる木の姿を描いた絵本。手漉きの風合いのある紙にシルクスクリーンで印刷し、一冊ずつ手製本で綴じられています。2008年の国際ブックフェアでは、その工芸的な美しさに加えて、手の届きやすい価格設定(日本語版はタムラ堂より税込3,456円で販売)が驚きを呼び、大きな話題となりました。

手漉きの紙を使い、インド各地の土着的な手工芸を絵本に取り入れたのも画期的なことでした。インドの少数民族に伝わる、日常的な祈りや特別な行事のために描かれる装飾的アートは、これまで本として出版されたことはありませんでした。そうした民俗芸術の画家を絵本の世界へと導き、「本」として作品にしたのは、タラブックスが初めてだったのです。『水の生きもの』『世界のはじまり』なども、各地に伝わる民俗画の手法で描かれ、手製本でつくられた絵本です。これらの作品も高く評価され、世界各国で出版されました。

ハンドメイドで高いクオリティを保ちながら、商業的な本をつくり続けるのは簡単ではありません。アーティストや本を制作する職人チームが不当に搾取されない本づくりをすること。事業拡大はせず、あえて小さい規模を保つことで風通しのよい組織であり続けること……。出版を通してよりよい社会にしていきたいという信念が、その稀有な活動を支えていると言えるでしょう。

本展では、原画に加え、本の制作現場の写真や映像などを通じて、タラブックスの本づくりの魅力に迫ります。ハンドメイドの絵本の他にも、教育や社会問題をテーマにしたノンフィクションや、ジャバラ型や祭壇型の独創的な形の本など、多彩な作品を手がけるタラブックス。美しい佇まいの本に込められた、熱い思いにぜひ触れてみてください。

『夜の木』(2006年初版)原画。『夜の木』のイラストは、3名のゴンド族の画家のうち2名がモノクロ、1名がカラーで作成。モノクロで作成されたイラストは、タラブックスの印刷工房が配色を決めシルクスクリーン印刷している。

『水の生きもの』(2011年初版)。インド東部ビハール州の伝統芸術であるミティラー画の手法を取り入れ描くアーティスト、ランバロスによる絵本。ミティラー画とは、特別な行事の際、壁や家の前の地面に描かれる民俗芸術。ランバロスは彼が生まれ育ったガンジス川のほとりの風景を描いている。

『猫が好き』(2009年初版)。インド各地の民俗画家がさまざまな猫の絵を描いたユニークな絵本。美しい描線で文様が描き込まれた猫、シンプル形で力強く描かれた猫など、各地に伝わる個性的な芸術様式を反映している。

シルクスクリーン印刷の制作現場。一枚一枚手刷りで行われている。

展覧会『世界を変える美しい本 インド・タラブックスの挑戦』

開催期間:2017年11月25日(月)~2018年1月8日(月)
会場:板橋区立美術館
東京都板橋区赤塚5-34-27
TEL:03-3979-3251
開館時間:9時30分~17時 ※入館は閉館の30分前まで
休館日:月、2017年12月29日(金)〜2018年1月3日(水) ※1月8日(月)は祝日のため開館
入場料:一般 ¥650(税込)
www.itabashiartmuseum.jp
※巡回展 刈谷市美術館:2018年4月21日(土)〜6月3日(日)

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