2週間の隔離をものともせず、是枝裕和監督も参加した台湾版アカデミー賞の注目作とは。
台湾版アカデミー賞と呼ばれる中国語圏のフィルムフェスティバル「台北金馬影展(Taipei Golden Horse Film Festival)」、通称「金馬賞」の第57回となる授賞式が去る11月、台北市内の会場で行われた。
この金馬賞は2018年の授賞式で、最優秀ドキュメンタリー賞を獲得した傅楡監督が「台湾が独立した国家として見られることを望む」と発言したため、翌19年から多くの中国勢が不参加となっている。そのため台湾内外でアワードの内容やクオリティを危惧するような声もあったが、今年は特に台湾の文化や人の内面を映し出す、素晴らしい作品が出揃ったと評判を呼んでいる。中国や香港、マレーシア、シンガポールからの応募もあった中で、最優秀作品賞および最優秀監督賞、最優秀長編フィクション作品賞、最優秀脚本賞、最優秀編集賞など5部門で受賞したのがラブコメディの『消失的情人節(My Missing Valentine)』だ。
今年の授賞式のハイライトが、台湾を代表する映画監督のひとり、ホウ・シャオシェン(侯孝賢)監督の生涯功労賞受賞であった。侯監督を慕う日本の是枝裕和監督は、プレゼンターのひとりとして来台。2週間の隔離生活を経て壇上に上がると「なんのためらいもなく(このオファーを)お引き受けしました。隔離期間が4週間でも躊躇なくお引き受けしたと思います」「なんとか少しでも(侯監督に)寄りたいと思って僕は映画監督になる覚悟を決めました。血縁関係はないけれど、僕は彼の息子だと思っています」などと語り、場を温めた。
侯監督は「人を感動させるには、まず自分が感動することが必要」とスピーチを締めくくり、会場はスタンディングオベーションに包まれた。
もうひとつのハイライトが、「国民的おばあちゃん」と呼ばれる81歳のベテラン俳優、チェン・シューファン(陳淑芳)の最優秀女優主演賞・最優秀助演女優賞(ともに『孤味』)、最優秀助演女優賞(『親愛的房客』)のダブル受賞だ。63年にわたる彼女の演劇人生で初となる受賞だった。『孤味(邦題:弱くて強い女たち)』では、ビビアン・スーが彼女の娘役を演じている。
台北金馬影展執行委員会主席で、台湾出身・アメリカ在住の映画監督アン・リー(李安)は、是枝監督同様、隔離生活を経て式典に参加。「金馬賞に30年参加している中で、今年は特別心に残った」と、世界がコロナ禍で苦境に立たされる中、台湾でリアルにフィルムフェスティバルが開催できたことへの感動を表した。台湾映画が大豊作となった2020年の「金馬賞」は、中国語圏映画の権威ある賞として、また新しい姿を見せてくれた。