手のひらに収まる小さなスマホを指先ひとつで操り、数百万の楽曲を気の赴くままに流す……。30年ほど前から見れば魔法のような音楽の聴き方が、いまでは当たり前になっています。ところがそんな現代において、ネット配信音楽も含めた日本レコード協会加盟レーベルの年間売上の5%をアナログレコードが、しかもたった2日で叩き出していることをご存じでしょうか。
その2日のうちの1日は、11月3日に設定された「レコードの日」。もう1日が、毎年4月の第3土曜日に世界同時開催される「レコードストアデイ」です。これはレコード好きの若者が、リアル店舗を盛り上げるべく興したイベント。2008年4月にサンフランシスコでスタートし、いまでは23カ国で1万4000店の店舗が参加します。当日はネット販売が制限されたイベント限定盤を求めて、世界中のレコードショップで行列ができるほどの盛り上がりを見せています。昨年はレッド・ツェッペリン「ロックンロール」のシングル盤が、アナログだけのイベント限定盤にも関わらず英国チャートで1位になったというから驚きです。
日本では、アナログプレスを守り抜いている東洋化成が2年前から旗振り役に。今年は4月第2土曜日の開催で、およそ300弱の加盟店が89タイトルの日本限定盤リリースをはじめ、ライブやトークショー、パーティといったイベントを繰り広げます。
そんな2019年のレコードストアデイの“アンバサダー”に高橋幸宏さんが、若者向けのアピールを担う“ミューズ”にモデル/DJの水原佑果さんがそれぞれ就任。50年にわたる音楽シーンの第一線で活躍を続ける高橋さんに、アナログレコードに対する熱い思いを伺いました。
高橋幸宏が考える、「アナログ」の魅力とは?
自身の音楽制作でもアナログ盤のリリースを積極的に行い、各所で「若い人に聴いてほしい」と答えているという高橋さん。あえてアナログ盤をつくることへの思いを尋ねると、開口一番に「気をつけたいのは、アナクロ、懐古主義にならず”新しいアナログの魅力”を探ること」という言葉が返ってきました。最近はレコードを聴いている世代にも変化があるようです。
「ちょっと前まで、レコードファン層って圧倒的に40代以上で、20代が聴いてるなんてことは少なかったように思う。それが最近になると、若い世代から『当然アナログ出しますよね?』と言う声を聞くようになりました」
レコードで音楽を聴くのが当たり前だった世代の高橋さんにとって、そうではない世代がレコードに見出す価値に興味を惹かれているそうです。世代を超えて価値観をぶつけ合うことで、新しいレコードの世界が生まれていると語ります。
では、その”価値”とはいったい何なのでしょうか? 「それは、レコードというモノが生み出す人間どうしのつながりじゃないかな」と高橋さん。
「ジャケットを撮影したカメラマンや、帯のコピーを紡ぎ上げるコピーライターとミュージシャンのつながりが、音楽をどれだけ面白くしてくれるか。そうして出来上がった30cm×30㎝のアートワークにはファンを惹きつける力があるし、思い入れのある1枚ならば帯を捨てたりしないでしょう。音楽における“アナログ”とはそういうこと。人間どうしがモノに集まって自然とつながれるし、逆にモノがないとつながった気になれない。これからきっと、そういう風になっていく。若い世代はレコードに針を落とすのも上手くはないだろうけど、失敗した時のドキドキ感なんかも、実は大切にしたいことなんです」
いまの時代にアナログレコードを愉しむこと。それは利便性の追求のなかで削ぎ落とされてしまった面白さ、豊かさの再発見なのかもしれません。
「RECORD STORE DAY JAPAN」
開催日:2019年4月13日(土)
開催店舗や限定商品、レコードは公式ホームページをチェック。
https://recordstoreday.jp