超絶ダメ男を仲野太賀が好演! “なまはげ”をきっかけに...
文:細谷美香

Profile : 映画ライター。コメディや青春映画から日々の生きるエネルギーをもらっている。クセが強くて愛嬌がある俳優に惹かれる傾向あり。偏愛する俳優はニコラス・ケイジです。

超絶ダメ男を仲野太賀が好演! “なまはげ”をきっかけに大人になる難しさを描く『泣く子はいねぇが』。

秋田県出身の佐藤快麿監督が、同県男鹿市の伝統行事・なまはげと父性を絡めて描いた物語。『壊れ始めてる、ヘイヘイヘイ』(2016年)でも佐藤監督とタッグを組んだ仲野太賀が、大人になれない主人公・たすくを演じる。その元妻・ことね役は吉岡里帆。
©2020「泣く子はいねぇが」製作委員会

いわゆるダメ男が主人公の映画は数多ありますが、『泣く子はいねぇが』の主人公、たすくはなかなかレベルの高い(?)ダメ男。映画のなかのダメ男について書くとき、「愛すべきダメ男」とか「憎みきれないろくでなし」などと表現してしまうことが少なくないのですが、『泣く子はいねぇが』のたすくは、フォローするのが結構難しい。なぜなら彼が常に現実に背を向けて、“逃げ”の体勢をとり続ける男だからです。

秋田県、男鹿。たすくとことねの間には、娘が誕生したばかり。映画が始まってすぐ、赤ちゃんに全神経を注いでいることねが、シャキっとしていない夫のたすくにイライラしていることが伝わってきます。大晦日の夜、地元の伝統行事「なまはげ」に参加したたすくは、ことねからお酒を飲まないようにと強く言われたのに、あっさり飲んでしまい泥酔。なまはげのお面を付けたまま全裸で走っている姿が、テレビで放送されてしまいます。

それから2年後、逃げるように向かった東京で暮らすたすくは、妻と娘への思いを胸に再び秋田へと戻りますが……。

たすくの親友・志波役を、俳優の佐藤浩市を父にもつ寛一郎が演じる。
©2020「泣く子はいねぇが」製作委員会

いまさら帰って来られてもことねにとっては身勝手な行動にしか思えないだろうし、たすくの兄は冷たい視線を向けるけれど、秋田名物のアイス、ババヘラを売るたくましき母は責めることなく当たり前のように次男を迎え入れ、頼り甲斐のある朗らかな親友もいる。所在ないような顔なんてせず、働くなりなんなりして生活というものと向き合いなさいよ……、と感じたわけですが、ジタバタと情けない様子の彼を見ているうちに、次第に「あれ? 父になるって怖いことだったんだろうな」「男らしさなんて押し付けられても困るよね……」と納得しそうになる瞬間が。

この説得力は、寒風吹きすさぶ景色のなかで男の弱さを徹底的に描き出した監督の粘り勝ち。そして大人になりきれないたすくを、常に目が泳ぐ絶妙な情けなさで表現した仲野太賀の名演あればこそでしょう。

是枝裕和率いる映画集団「分福」のバックアップを受け、自身の出身地を舞台にしたオリジナル映画を完成させたのは、30代の新鋭、佐藤快麿監督。ラストを見届けた後には妙に清々しい気持ちになり、早くも次回作を観たくなりました。

「なまはげ存続の会」会長を演じる柳葉敏郎からは、長年地元で暮らしている人物の絶妙なリアリティが感じられる。
©2020「泣く子はいねぇが」製作委員会


『泣く子はいねぇが』
監督/佐藤快磨
出演/仲野太賀、吉岡里帆
2020年 日本映画 1時間48分
11月20日(金)より、新宿ピカデリーほかにて公開。
https://nakukohainega.com/