ジョナ・ヒル×A24! スケボー少年たちのまぶしくて痛い青春を描く『mid90s ミッドナインティーズ』

  • 文:細谷美香
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文:細谷美香

Profile : 映画ライター。コメディや青春映画から日々の生きるエネルギーをもらっている。クセが強くて愛嬌がある俳優に惹かれる傾向あり。偏愛する俳優はニコラス・ケイジです。

ジョナ・ヒル×A24! スケボー少年たちのまぶしくて痛い青春を描く『mid90s ミッドナインティーズ』

主人公を演じるサニー・スリッチ(右)は、俳優でありプロのスケートボーダーでもある。主人公の兄を演じるのは、『マンチェスター・バイ・ザ・シー』(2017年)でアカデミー賞ノミネート経験もあるルーカス・ヘッジズ(左)。
© 2018 A24 Distribution, LLC. All Rights Reserved.

『40歳の童貞男』をはじめとするコメディ映画で頭角を現し、『マネーボール』『ウルフ・オブ・ウォールストリート』などのメジャー作品でも名脇役として存在感を示してきた俳優、ジョナ・ヒル。彼が初監督、脚本を手がけた『mid90s ミッドナインティーズ』は、もはや日本でも気鋭のスタジオとしてお馴染みになったA24とタッグを組んだ作品です。タイトルが示すように、背景となっているのは90年代半ばのロサンゼルス。ジョナ・ヒルは自身の思い出を反映させながら、まぶしさと痛みを併せもつ青春映画を完成させました。

主人公のスティーヴィーは、シングルマザーの母と兄と暮らす13歳の男の子。痩せっぽちの彼は、力の強い兄に勝ちたいという気持ちを抱えながら暮らしています。彼がある日出会ったのは、街のスケートボード・ショップに入り浸っている年上の少年たち。家族や学校とは違う場所を見つけたスティーヴィーは、そこで新しい世界を知っていくことになるのです。

ジョナ・ヒルはグラフィティなどを使って、青春時代を過ごした90年代半ばのコートハウスを再現。現在公開中の、スケボー少年たちのドキュメンタリー『行き止まりの世界に生まれて』と併せて観るのもおすすめ。
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ファッションや音楽のセレクトへのこだわりはもちろんのこと、90年代のムードをスクリーンに焼き付けるために、全編16㎜のフィルムで撮影。ジョナ・ヒルのセンスとあの時代への愛情が細部にまで詰め込まれています。スティーヴィーを演じたサニー・スリッチの表情がたまらなく愛らしく、まぶしそうに見上げながら未知のコミュニティに足を踏み入れていく時の緊張感と高揚感が、観る者の心臓に直接伝わってくるかのよう! 

背伸びをしてお酒やドラッグ、セックスなどいくつもの初体験をする彼の視界はグッと広がっていきますが、やがて見えてくるのは楽しいだけではない現実。少年たちがそれぞれ抱えている事情や、うんと大人に見えてもまだ壊れやすいティーンであることが、少しずつ見えてくるのです。パーソナルな思い出をもとに青春の馬鹿騒ぎの終わりに漂う切なさをすくい取りながらも、しんみりしすぎないところがジョナ・ヒル流といえるかもしれません。

人生はままならないものだけれど、スケートボードで滑っている瞬間だけは、自由にどこへでも、どんな壁だって超えて好きな場所に行ける。そんな気持ちを体感できる、とびきりのスケボー青春映画です。


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『mid90s ミッドナインティーズ』
監督/ジョナ・ヒル
出演/サニー・スリッチ、キャサリン・ウォーターストンほか 
2018年 アメリカ映画 1時間25分 
9月4日より新宿ピカデリーほかにて公開。
http://www.transformer.co.jp/m/mid90s/