使わないものは不要なもの?『ハッピー・オールド・イヤー』は、捨てる行為にとことん向き合う“断捨離”ムービー
年末に向けて「断捨離」を予定している人も多いと思われるこの時期。今年はステイホーム中に実行したという人も少なからずいたかもしれません。タイから届いた『ハッピー・オールド・イヤー』は、まさに“断捨離ムービー”とも言える作品。日本でも話題を呼んだ『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』(2017年)のスタジオと主演女優が再タッグを組んだ、モダンなタイ映画の風を感じさせてくれる新世代の作品でもあります。
主人公はスウェーデンでミニマルなライフスタイルを学び、タイに帰国したばかりのジーン。実家では家を出た父親への思いを捨てきれない母と、ハンドメイドの服を販売している兄との3人暮らしです。ジーンはデザイナーとして独り立ちするため、その家を自分の事務所にリフォームする計画を実行に移そうとします。
まずはあらゆるものであふれた家を片付け始めますが、かつてプレゼントされたCDをあっさり捨てたことで、親友を傷つけてしまうことに。それをきっかけに、ジーンは借りっ放しだったものを持ち主に返しに行ったり、留学するまで付き合っていた恋人に会いに行ったり……。心がざわざわする日々を送ることになるのです。
「ときめき(=Spark joy)を感じるものだけを残す」というこんまりこと近藤麻理恵のメソッドに対して、「ここにあるもの全部にときめきを感じるから片付けられない」という兄の言い分に、思わず共感してしまう場面も。最初は躊躇なくどんどんゴミ袋をいっぱいにしていたジーンも、一つひとつのものと向き合うごとに、自分の過去や内面を見つめ直すことになります。
“使わないものは不要なもの”だと割り切ることができないのは、すべてのものはただの物質ではなく、あまねく思い出とひもづいているから。家を出て行った父親の残したグランドピアノを処分するのかどうか、ジーンの選択には家族の歴史とこれからも続いていく物語が重ねられています。最後に映し出されるのは、ミニマルライフに憧れている人にも反発を感じている人にも問いを投げかけるようなジーンの表情。捨てる行為をとことん追求することで生まれたオリジナリティあふれるヒューマンドラマを、ぜひ2020年の最後にチェックしてみてください。
『ハッピー・オールド・イヤー』
監督/ナワポン・タムロンラタナリット
出演/チュティモン・ジョンジャルーンスックジン、サニー・スワンメーターノン
2019年 タイ映画 1時間53分
シネマカリテほかにて公開中。
http://www.zaziefilms.com/happyoldyear/index.html