“カメ止め”に続くのはコレか⁉ 低予算ムービー『メラン...
文:細谷美香

Profile : 映画ライター。コメディや青春映画から日々の生きるエネルギーをもらっている。クセが強くて愛嬌がある俳優に惹かれる傾向あり。偏愛する俳優はニコラス・ケイジです。

“カメ止め”に続くのはコレか⁉ 低予算ムービー『メランコリック』に、じわじわと引き込まれる。

東京国際映画祭日本映画スプラッシュ部門監督賞を受賞するなど高い評価を得た作品です。

昨年、低予算で製作された『カメラを止めるな!』が社会現象とも言える大ヒットとなり、“第2のカメ止め”が待ち望まれている日本映画界。有名俳優をキャスティングしていないので(いや、していないからこそ?)先読みできず、ウディネファーイースト映画祭で新人監督作品賞を受賞と、”カメ止め“との共通点をもつ作品が公開されます。とはいえその内容は、鮮やかなどんでん返し系ではなく、じわじわと旨味がにじみ出てくるスルメ系。東大出身でほぼニートの主人公・和彦が、近所の銭湯でアルバイトを始める冒頭シーンから、サスペンスフルなのにとぼけた空気感に一気に引き込まれてしまいました。

実はここ、オーナーが人を殺す場所として貸し出しているワケありの銭湯。和彦は昔からの従業員が深夜に死体の処理をしている現場を見てしまったことから、裏稼業を手伝うことになります。身体を動かして働いたからか、特別手当のせいか和彦は奇妙な充足感に包まれますが、やがて一緒にブラシでゴシゴシとタイルの血を掃除していた同僚の松本が、実は殺し屋であることを知り……。

死体が運ばれてくるだけにとどまらず、殺人現場にもなる「松の湯」。物騒な銭湯なのですが、オーナーは穏やかで人がよさそうだし、和彦も薪で死体が焼かれている様子を見ながら「よく燃えてますねぇ」なんて思わず感心しているし、牧歌的な空気が流れているのがなんとも可笑しい。和彦の両親はニートの息子にいつも優しく、再会した同級生との恋まで描かれます。環境は非日常的でも、登場するのは(ヤクザ以外は)善人たちというギャップ。そして和彦が感じる気持ちに普遍的な青春っぽさがあるところが、この映画を面白くしているのです。

掃除を終えて外に出て、すうっと朝の冷たい空気を吸う表情から伝わってくる、仕事を任せられることの喜び。それなのにオーナーが同僚に仕事を任せたときに感じたジェラシー。和彦はにやにやしたりがっかりしたりと感情がダダ漏れになるタイプなので、そんな気持ちが手にとるようにわかります。殺しのシーンには臨場感あふれる本格的なアクションを盛り込み、エンディングにはほのかに幸せな余韻まで残してくれる『メランコリック』。この映画を完成にこぎつけた同い年3人のユニット「One Goose(ワングース)」の名前を、覚えておいたほうがよさそうです。

パイロット版の短編からスタートして資金を集め、低予算で長編映画を製作。

製作したのは俳優・プロデューサー、監督・脚本、アクションも担当する俳優の3人からなる「One Goose」。


『メランコリック』

監督/田中征爾
出演/皆川暢二、磯崎義知、吉田芽吹ほか
2018年 日本映画 1時間54分 
8月3日よりアップリンク渋谷ほかにて公開。
www.uplink.co.jp/melancholic