『パブリック 図書館の奇跡』に見る、図書館が社会の縮図...
文:細谷美香

Profile : 映画ライター。コメディや青春映画から日々の生きるエネルギーをもらっている。クセが強くて愛嬌がある俳優に惹かれる傾向あり。偏愛する俳優はニコラス・ケイジです。

『パブリック 図書館の奇跡』に見る、図書館が社会の縮図として描かれるワケ。

これまで『ボビー』「星の旅人たち」手がけてきたエミリオ・エステベスの7本目の監督作。新聞記事から着想を得た物語です。© EL CAMINO LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

1980年代にはヤング・アダルト・スター“ブラット・パック”の中心的な存在とし活躍し、87年の『ウィズダム/夢のかけら』で監督デビュー。以来、監督としても着実に作品を積み重ね、父親のマーティン・シーンを主演に迎えた前作『星の旅人たち』では美しいロードムービーを見せてくれたエミリオ・エステべス。今回紹介する『パブリック 図書館の奇跡』は、そんな彼が製作、監督、脚本、主演を務めた作品。高校の図書室を舞台にした青春映画『ブレックファスト・クラブ』で人気者になった彼が、時を経てふたたび図書館を舞台にした作品を完成させたのです。

シンシナティが大寒波に襲われたある日、寒さをしのぐために閉館後の図書館に集まって来たホームレスたち。避難所が満員で入れない状況の中、エステベス演じる実直な図書館員のスチュアートはホームレスとともに図書館に立てこもります。“占拠”はもちろん問題となり、警察官や検察官、マスコミなどそれぞれの主張が入り乱れ……。

貧富の格差が広がる一方の現状を背景に、公共施設の役割や弱者へのまなざしが浮かび上がり、この図書館は社会の縮図のよう。社会派作品ではあるのですが、エステべスは大きな声で主張を述べるのではなく、スチュアートとホームレスの会話にユーモアをしのびこませて、あくまでもさりげなく問題を提起しています。だからこそ、館長の「図書館は民主主義の最後の砦だ」という叫びが熱い言葉として胸に迫ってくるのです。

スタインベックの『怒りの葡萄』の一節も登場し、人を救い、励ます文学の役割を織り込む心憎さも。“占拠”の解決方法をめぐる展開で観る者を引きつけ、笑いと涙をちりばめながら鮮やかなエンディングへ導くエミリオ・エステベス。『パブリック 図書館の奇跡』は、エンターテイメントの力を信じる人の権力との戦い方を見せてくれる映画なのです。

エステベスの元に、アレック・ボールドウィン、クリスチャン・スレイターらスターが集結。© EL CAMINO LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

公共図書館の元副理事がロサンゼルス・タイムズに寄稿した記事から着想を得た作品。© EL CAMINO LLC. ALL RIGHTS RESERVED.


『パブリック 図書館の奇跡』

監督/ エミリオ・エステベス
出演/アレック・ボールドウィン、テイラー・シリングほか
2018年 アメリカ映画 1時間59分
ヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて公開中。
https://longride.jp/public