フランス映画の名匠×西部劇=骨太人間ドラマ、『ゴールデンリバー』に見るヒット映画の方程式。
『預言者』『ディーパンの闘い』などで知られるカンヌ国際映画祭の常連監督、ジャック・オーディアール。フランスの名匠が新作の題材に選んだのは、意外なことにハリウッド俳優たちを迎えた西部劇。でもこの映画を観終わる頃には、まったく意外ではなかったことに気付かされます。
ゴールドラッシュの時代のオレゴン。殺し屋の兄弟「シスターズ・ブラザーズ」の兄イーライと弟チャーリーは、ある権力者からの依頼によって、連絡係のモリスとともに黄金の見分け方がわかる化学者のウォームを追跡することに。やがて彼らの間には奇妙な友情が芽生えていきますが……。
骨太な人間ドラマに定評のある監督が手がけたウエスタンらしく、派手な描写に頼ることなく、それぞれの思惑をもつ男たちの交流を、美しく乾いた空気のなかでじっくりと描き出していきます。度胸のあるリーダー気質の弟と、そろそろ殺し屋を引退したいと思っている兄。大金を手に入れて「野蛮な世界を終わらせ、理想郷をつくる」という夢をもっているウォームと、その夢に共鳴していくモリス。色合いの違うロマンと欲望をもつ男4人の物語は、魅力的なキャストによってより奥行きのあるものになっています。
血気盛んでありながらどこか庇護欲をそそられる弟・チャーリーを演じるのはホアキン・フェニックス、身の回りの世話を引き受けている温厚な兄・イーライにジョン・C・ライリー。人を魅了する化学者にリズ・アーメッド、男の友情を知っていく孤独なモリスにジェイク・ギレンホール。気になる俳優がひとりでもいる場合は、映画館に足を運んで大正解! 何よりジョン・C・ライリー推しの人には、満足すること間違いなしの1本としておすすめしたい作品です。ときに過酷な旅にほのかなユーモアが漂うのは、歯磨きのシーンだけでも和ませてくれる彼の愛すべき存在感があればこそ。原題は『ザ・シスターズ・ブラザーズ』。兄弟愛を軸に、男の友情やユートピアへの憧れを重層的に描き出した、ラストも含めて異色のウエスタンに仕上がっています。
『ゴールデン・リバー』
監督/ジャック・オーディアール
出演/ジョン・C・ライリー、ホアキン・フェニックス、ジェイク・ギレンホール、リズ・アーメッドほか
2019年 アメリカ・フランス・ルーマニア・スペイン・ベルギー合作映画 2時間
7 月 5 日より TOHO シネマズ シャンテほかにて公開。