「原爆堂」を知っていますか?  建築家・白井晟一の遺した、未完の建築が...

「原爆堂」を知っていますか?  建築家・白井晟一の遺した、未完の建築が放つメッセージとは。

文:阿部博子

『原爆堂(建築パース)』 1954-1955年  鉛筆、紙  H 53.0×W 77.0cm 

親和銀行本店、松濤美術館、ノア・ビル、浅草善照寺本堂、虚白庵(こはくあん)などの代表作で知られる建築家の白井晟一(しらい・せいいち)。彼が1955年に発表し、幻の建築として語り継がれている「原爆堂」計画をご存じでしょうか。 このプロジェクトに焦点を当てた展覧会『白井晟一の「原爆堂展」 新たな対話に向けて』が、東京・青山のGallary5610にて2018年6月30日まで開かれています。

1954年、ビキニ環礁沖で水爆実験の犠牲となった第五福竜丸事件に衝撃を受けた白井は、広島・長崎の惨禍に向き合い、自発的に原爆堂計画を発表。人類が手にした核が引き起こす制御不能な局面を見つめ、共存への願いの表明しました。この時代のカルチャーを振り返ってみると、映画や文学、美術や写真、漫画などの分野からは核をテーマとした作品が数多く生まれていますが、建築では、この原爆堂が唯一とされています。

本展は、白井直筆のスケッチや平面図、パースの他、遺された資料をもとに原爆堂を復元した模型が展示されています。また、本展のために製作されたCG動画が会場内で公開され、原爆堂の外部から内部を歩く擬似体験ができます。エントランスをくぐった先に立つ、水盤の中心に円筒で支えられた白く四角い建物……。白井が描いた鉛筆画によるパースの描写で、水面に反射してゆらぐ姿は、まるできのこ雲のように見えます。彼が原爆堂の設計を通して目指したのは、戦争や核の恐ろしさを訴え、平和の象徴をつくることだけではありません。この計画には、さまざまな対立と分断の中で、どのように「共存」を描けるのかというテーマが込められているのです。

これから本展を訪れる方は、まず先入観のない状態で展示を観覧し、最後に入り口で上映している20分間のインタビュー映像を見てから、もう一度作品に向き合うことをお薦めします。建築家、建築批評家、写真家、劇作家という立場の違う4人が解釈した、白井晟一と原爆堂を表する言葉を聞いた後に作品に触れることで、より深く白井のメッセージを受け取ることができるでしょう。気鋭の映像作家、上野千蔵が捉えた白井を語る4人の姿と言葉、そして街や人、自然の情景が幾重にも折り重なる映像は、美しくも儚く心をざわつかせ、もう一度展示に向き合い白井の声に耳を傾けたくなります。60余年前に白井晟一が発した共存へのメッセージを感じてください。

会場で公開されている「原爆堂(CG動画)」  ©︎2018 株式会社竹中工務店・白井晟一研究所


白井晟一ポートレイト 1905年-1983年 

「原爆堂」にフォーカスした展示は今回が初の開催となります。原爆堂模型:武蔵野美術大学 美術館•図書館蔵 撮影:長崎剛志

『白井晟一の「原爆堂展」 新たな対話に向けて』

開催期間:2018年6月5日(火)〜6月30日(土)
開催場所:Gallery 5610
東京都港区南青山5-6-10 5610番館 
TEL:03-3407-5610
開廊時間:11時~18時 ※6月30日のみ11時~16時 
会期中無休
会期中入場無料
http://genbakudo-project.com/




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