コアとマス、それぞれしっかり笑いをとりたい。
白武ときお
放送作家
『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!』(以降、『ガキの使い』)『霜降りミキXIT』といったテレビ番組から、『しもふりチューブ』『みんなのかが屋』などのYouTubeチャンネルをも担当する、29歳の放送作家がいる。初の著書『YouTube放送作家お笑い第7世代の仕掛け術』を上梓した白武ときおだ。
高校時代に映画、ドラマ、お笑いのDVDなどを浴びるように見て、特にハマったのがダウンタウン。21歳で放送作家デビューし、23歳の時に『ガキの使い』の年末特番「絶対に笑ってはいけない大脱獄24時」に参加した。
「テレビでいちばん広告料が高いと言われる番組に23歳で潜り込めたのはラッキーでした。『ガキの使い』のチームは番組開始時から30年以上笑いを研究している。食らいつこうと必死でした」
以降、毎年声が掛かり、昨年から最年少のレギュラー作家となった。同時並行で、霜降り明星やかが屋など同世代の「お笑い第7世代」と呼ばれる芸人の動画を多く手がけている。
「テレビはスポンサーがいて結果がシビアに求められるので、多くの人に見られるように軌道修正することがあります。でもYouTubeは僕らが勝手にやっていること。好きな内容で、その芸人さんのファンに向けて、マックスの面白さを提供できる。第7世代の面白さを伝えられる人間になれたらいいなと思いますね」
第7世代には特徴があるという。
「いまはメディアでよくないことを言うとSNSでダイレクトメッセージが届きます。なので『人を傷つけない笑い』を考えた振る舞いや言葉を選択できる人が増えている。とはいえ、前の世代がやってきたことを頭ごなしに否定してしまうのでは、多様性がなくなってしまう。『アップデートしましょうよ』と手を差し伸べて、全体をアップデートするのがよいと思っています」
よい企画を生む秘訣は「たくさんのものを見ること」だと白武は言う。
「多くのパターンを知った上で、最良のものを選択したり、掛け合わせたり。たとえば『みんなのかが屋』の15分でコントをつくる企画は、『バクマン。』という漫画との掛け合わせです。『バクマン。』には、ネットでみんなにアイデアをもらいながら漫画を描く人物が出てきます。それをYouTubeの生配信と掛け合わせて、視聴者からお題をもらってコントをつくる企画に。それは山ほどコントをつくってきた、かが屋だから面白くなる。企画と人とが合うと、熱を帯びて拡散します」
アイデアをメモするのは、ミシン目入りのリーガルパッド。
「ウディ・アレンのドキュメンタリーの中で、彼がリーガルパッドにアイデアを書いているのを見て。それをちぎって並べながら、映画のプロットを考えていたんです」この方法が活かされそうなのが、彼が取り組んでいる小説や脚本だ。
「誰に頼まれたわけでもなく、少しずつ小説を書いています。小説を原作に脚本を書いて、映画に育つところを見てみたい。憧れるのはポン・ジュノ。パルム・ドールにアカデミー賞。コアにもマスにもウケるすごすぎるクリエイターです」
ネットでもテレビでも「コア」と「マス」に向き合う“YouTube放送作家”の視座。エンタメを盛り上げてきた先人らとは異なる、新たな面白さを開拓していきそうだ。
※Pen 2020年12月1日号 No.508(11月16日発売)より転載
『YouTube放送作家 お笑い第7世代の仕掛け術』
放送作家として地上波からYouTubeまで越境して活躍する白武が、仕事術や企画術を開陳した初の著書。影響を受けたお笑いや映画を網羅した「必見コンテンツ100選」や、お笑いコンビのかが屋との座談会も収録。
白武ときお 著 扶桑社 ¥1,540(税込)