リングで「中邑」を表現し、観客をムーブさせたい。

リングで「中邑」を表現し、観客をムーブさせたい。

文:高野智宏
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中邑 真輔

WWEスーパースター

●1980年、京都府生まれ。青山学院大学卒業後、新日本プロレス入団。総合格闘技とプロレス双方で活躍。最年少でIWGPヘビー級王座を奪取し、トップ選手として君臨。2016年2月にWWEへ移籍。下部団体NXTでの王座獲得を経て、17年にスマックダウンへ昇格。

今回の来日前、保持していたインターコンチネンタル(IC)王座を奪われるも、「取られちゃいましたね」と、 余裕の笑みを浮かべる。WWEで活躍する「黒きロックスター」中邑真輔だ。

世界最大のプロレス団体であり、180カ国、8億世帯が視聴可能なライブショーを毎週放送するアメリカの「WWE」。中邑はWWEが擁するブランド「スマックダウン」に所属し、日本人で初めてロイヤルランブル(バトルロイヤル)を制覇。2018年に開催された年間最大のPPV興行「レッスルマニア 34 」ではWWE王座へ挑戦するなど、世界最高峰のリングで輝きを放つヘッドライナーだ。

中邑といえば、ワイルドなルックスや、クネクネとした怪しいムーブが特徴であり、人気の要因でもある。この動きは2016年1 月まで所属していた新日本プロレス時代からだが、以前は「遊びのない、ゴリゴリのストロングスタイルでした」と振り返る。

スタイル転換の背景には、2011年の未曽有の大災害があった。

「東日本大震災です。それまでにも父や祖母の死を経験して喪失感を感じたことはありましたが、あの圧倒的な死の前には感情が入り込む余地がなく、ただ虚無感だけが残りました」

当時、新日本プロレスではトップとして活躍していたが、「その地位も無意味に思えました。自分に正直に好きなことをして、精一杯生きていこう」 と決意。5月、家族を残すことに不安を覚えながら、意を決してアメリカとメキシコへ長期遠征に旅立った。

現地の試合では、髪型をモヒカン風に刈り上げ、黒のレザージャケットを羽織り踊りながら入場した。「ロックスター」の誕生だ。試合中には現在の原型となる独特のムーブも披露した。

「主催者からは『呼んだのはクネクネ踊るヤツじゃない。ストロングスタイルの中邑だ!』って怒られました(笑)」

変化は日本のファンにも違和感をもたれたが、貫き通した。やがて、入場時にロープをつかみ、反り返ると同時に発する中邑の「イヤォッ!」の雄叫びに、ファンも呼応するようになる。

「マイケル・ジャクソンが好きなんです。彼の佇まいや静から動へと移る際の動作には尊敬する武道家と共通する点もあり、その動きを取り入れています。試合中に脱力するのは、攻撃にも防御にも柔軟に対応できるから。あの動作には、怪しげな雰囲気を演出する一方、現実的な理由もあるのです」

一見すると、単なるパフォーマンスと思われがちな動きだが、その実、戦う上で効果があるのだ。中邑の戦法は、その独特な動きと、打撃を多用したシビアなファイトスタイルの融合から、「キング・オブ・ストロングスタイル」と称され、16年に移籍したWWEでも当初からそのままの姿が熱狂的に受け入れられた。18年にはユナイテッド・ステイツ(US)王座を奪取。「レッスルマニア34」ではWWE王座挑戦失敗後、ヒールに突如転向、衝撃を与えた。19年にはIC王座を獲得。存在感を放ち続ける。

「WWEに移籍してから4年が経ちましたが、近頃、僕の存在が当たり前となり、その“慣れ”に危機感を感じています。いまは、いかにして新たなブレイクスルーを起こすかを模索中なんです。リングでは、中邑真輔そのものを表現したい。感動することを英語で『ムーブ』と言いますが、僕のムーブでお客さんをムーブさせた時が、最高の喜びです」

視線の先にはIC王者を超える、WWE王者のベルトを掌中にした自身の姿があるに違いない。


Pen 2020年4月1日号 No.493(3月16日発売)より転載


『WWE Live Japan』

今夏、WWE日本公演が開催。中邑や「カブキ・ウォリアーズ」のアスカとカイリ・セインなど、WWEスーパースターが出場予定。「ハウスショーならではの魅力を伝えたい」と中邑は語る。
大阪公演/7月2日(会場:エディオンアリーナ大阪) 横浜公演/7月3日、4日(会場:横浜アリーナ) 出場予定/中邑真輔、セス・ロリンズ、AJスタイルズ、ルーク・ギャローズほか

リングで「中邑」を表現し、観客をムーブさせたい。