インディーズ新時代に、新しい「道」をつくりたい。
小島秀夫
ゲーム・クリエイター
去る9月に、東京ゲームショウ2019の会場を大いに熱狂させたゲーム『DEATH STRANDING(デス・ストランディング)』のプレイ映像。主人公は俳優、ノーマン・リーダス。ほか世界的名優らが出演するこのゲームは、全世界が待望した〝小島監督〞こと小島秀夫の新たな超大作だ。
だが、実は本作はインディーズ作品でもある。小島が古巣から独立し、スタッフもエンジン(ゲームの中核となるソフト)もない状態でひとりで新会社を設立するところから始まったのだ。
ゲームの舞台は、謎の現象により分断された世界。主人公は荒廃したアメリカ大陸の各地に荷物を運び、視界に入る場所はどこでも行ける「オープンワールド」のゲームの世界を旅する。失われた「つながり」を取り戻していく過程は、小島の姿と重なる。
独立後、なぜインディーズの道を選んだのか。彼は、後に続く人々のために「自ら道をつくりたいから」と言う。
「5年以内にエンタメは大きく変わると思うんですよ。その先にあるのはAIがクリエイターを支える時代で、AIがエージェントの代わりになり、スタッフも探してくれる。そこに向けて『インディーズでもできるぞ』と示さなきゃならないと思ったんです。よく『ゲーム会社から独立して、成功した人はいない』と言われましたよ。でも僕が足跡を残していけば、モノづくりが変わるんじゃないですかね」
とてつもない広がりを予感させる『デス・ストランディング』の世界。しかし開発スタッフは決して多くない。
「80人くらいしかいません。普通は600人くらい必要ですが、少ない方が最初のビジョンからブレないんです」
少人数態勢は「これまで存在しなかったゲームや作品」をつくる小島の在り方に沿う。前例のない目標は、多くの人に理解させることが難しいのだ。
「世の中にないものって、説明してもわからない。新しいものをつくる時って、身内がいちばんネガティブなんですよね。ただ、僕の経験上『こんなゲーム売れへん』と言われたものこそ新しく、大ヒットする確信がある(笑)。とはいえ、ずっと孤独ですよ。だからひとりずつ仲間を増やしていくんです」
「世の中にないもの」の発想は、膨大な映画鑑賞と無縁ではない。「僕の体の70%は映画でできている」とSNSで言う原点は「親が映画好きだったから」。
「キューブリックやヒッチコック作品も、オヤジの解説付き。『十戒』とか見ると、もうずーっと横で副音声(笑)。途中で『ところで問題です』って言われるんですよ。それを兄が答えたら、僕は叱られて(笑)。でも、自分から映画館に行くようになりましたね」
彼をゲームづくりに導いたのは、ふたりの天才ゲーム・クリエイターだ。
「ひとりは『スーパーマリオシリーズ』の宮本茂さん。マリオは二次元の世界で走ってジャンプするだけなのに、レンガを割るとなにか出てきたり、奥行きがあるのに驚いて。もうひとりは堀井雄二さんです。『ポートピア連続殺人事件』はファミコンなのにドラマがある。僕は映画監督になりたかったんですが、ゲームの世界でやりたいことができるんとちゃうかな、と思えた」
海外から映画づくりのオファーも次々と来るが、やはりゲームづくりを優先しそうだという。
「ゲーム開発は映画のようなロケがないので続けられます。でもボロボロなんで機械の身体は欲しいかな。それでリドリー・スコット監督の『ブレードランナー』に縁ある火星に行って5世紀ぐらい生きて、『エイリアン』のように宇宙人に会いますよ」
※Pen 2019年11月15日号 No.485(11月1日発売)より転載
『DEATH STRANDING』
PlayStation®4用タイトル。謎の現象で人類が分断され、孤立した世界。主人公のサム・ポーター・ブリッジズは、世界を再びつなぐための任務に赴く。世界的名優が多数出演。
ソニー・インタラクティブエンタテインメント
パッケージ版・通常版¥7,590
ダウンロード版・通常版¥7,590 11/8発売