旅には必ず文庫を数冊持っていき、荷物を軽くするため読み終わったページから破って捨てていくという寺田直子。コロナ感染拡大の影響により、旅行に出かけづらいいまこそ、彼女が読んでほしいと思う作品を聞いた。
「まずは『ぱらのま』。主人公のお姉さんの旅の進め方が私と似てるんですよ。あてもなく出かけて、途中で目的が見えてくる。目的ができると、なんだか勝った気になるんです(笑)。ひとりで旅をすると、より深く自分の世界に入れるし、大人の経験値があれば、海外や秘境まで行かなくても、電車で行ける範囲の場所で楽しめてしまう。そしてなにより、こういうマイクロツーリズム的視点をもつことは、この状況下ではとても重要な気がしています」
続いては『極夜行』。GPSを持たずに北極を行く“脱システム”な旅は、この現代社会への強烈な問いだ。
「便利だが、本当にそれでいいのか、と。旅にしてもビジネスにしても、これまでの方法を変えていくべき局面にあると改めて思っています。そのため、止めようもなくあふれ出る本能のまま冒険に挑むノンフィクションは、本当に面白い。旅の根底には、いつもクエスト(探求)があります。著者も常になにかを探し求めていて、読者はこの本を読むことで追体験して、その経験がまた新たな旅につながるんです」
そして最後の一冊は『バウルを探して』。2013年に出版されてから2度出版社を変え、3回目にしてついに完全版として世に送り出された本である。
「3回目の出版なんて、本自体もまさに旅を重ねてきたかのよう。バウルという言葉に出合ったことから、中川彰さんとダッカへ赴く。紆余曲折の末、ここまで深いものにたどり着いたのが、ジャーナリストとしてうらやましいと思います。タイトルにも“探して”とありますが、なにかを探し求めて、誰かと触れ合っていく中で、そのなにかを見つけていくことこそ旅の本質ではないでしょうか。そういった意味で、究極の旅のあり方を見せてくれる一冊なんです」
最近は「旅養分が足りていない」と寺田。気兼ねなく出かけられる日に備え、この3冊を読んで養分を吸収しながら旅の本質を考えたい。
※Pen2020年11/1号「心に響く本」特集よりPen編集部が再編集した記事です。
関連記事:茶人・木村宗慎が選んだ〈美術〉の本
関連記事:千葉大学教授・中川裕が選んだ〈アイヌ〉の本
関連記事:文筆家・森一起が選んだ〈食と酒〉の本
関連記事:社会学者・大澤真幸が選んだ〈哲学〉の本
関連記事:映画評論家・町山智浩が選んだ〈アメリカ〉の本
関連記事:ジャーナリスト・林信行が選んだ〈テクノロジー〉の本
※Pen2020年11/1号「心に響く本」特集よりPen編集部が再編集した記事です。