展覧会にあわせて制作されたカタログは、ロンドンのデザインチーム「Åbäke(アバケ)」による出版社「Dent-De-Leone(ダン・ド・リオン)」から刊行されました。実はガンパーは、この出版社の設立メンバーでもあるのです。デザイナーとアーティストが協働する出版活動というと、以前ご紹介したオランダ・アムステルダムを拠点とする「Roma Publications(ローマ・パブリケーションズ)」とも通じるところがあります。
1ページにつき1脚の椅子が収録されたカタログの最終ページには、なんと椅子のイメージがありません。その理由は、99脚は連れ立って各会場へと巡回するけれど、100脚目の椅子だけは、巡回先の土地で新たに調達して制作するから。つまり、展覧会ごとにそこでしか観ることのできない100脚目の椅子が、巡回した場所の数だけ存在するということになります。そんな事実を知ってしまったら、展覧会が行われるごとに会場を行脚したくなりますよね。
また、作品集は重版を繰り返し、版を重ねるごとに徐々に判型が小さくなっていくのだそう。現在新刊として入手可能な第3版は、日本の新書と文庫本を足して2で割ったような縦長のハンディサイズで、コデックス装(*1)もあいまってとても軽やかな佇まい。実はこの本、ぱっと見ではわからない、とても面白い仕掛けが潜んでいました。
展覧会を開催するにあたり、関係者に向けて送られたインビテーションカード(招待状)。これは一枚の紙を二度ほど折りたたんだ形状をしています。カードの端にはなにやら数字が記されています。「これは一体なんだろう?」と疑問を抱きながら、会場を訪れます。展覧会を鑑賞して、作品集ともご対面。この時、ようやく数字の謎が解けるでしょう。実はこれ、作品集のページに連動した数字だったのです。作品集にはカードに記されたページ部分がもとから欠落しており、折りたたんだインビテーションカードを差し込むことで、作品集として完成します。なんともウィットに富んだアイデア。遊び心あふれる計らいに、ただただ脱帽です。そこには、展覧会と作品集とがうまい具合に連動した、思いがけない掛け合わせの妙がありました。
*1 コデックス装
「糸綴並製本」とも呼ばれる。糸綴りした背面がそのまま見えるように仕立てられた仮製本様式。本の開きがよく手で押さえなくても180度開いた状態を保てる点やノド元が潰れない点から、見開きページの多い図版のような形式の本に活用されることが多い。