村上春樹の短編を再解釈した韓国映画『バーニング 劇場版...
文:細谷美香

Profile : 映画ライター。コメディや青春映画から日々の生きるエネルギーをもらっている。クセが強くて愛嬌がある俳優に惹かれる傾向あり。偏愛する俳優はニコラス・ケイジです。

村上春樹の短編を再解釈した韓国映画『バーニング 劇場版』は、カンヌで高い評価を受けた話題作です。

劇場版の公開に先がけてNHKでショートバージョンが放送されたことも話題を呼んだ本作が、ついに公開です。
©2018 PinehouseFilm Co., Ltd. All Rights Reserved

村上春樹の短編『納屋を焼く』が、韓国で映画化されました。監督は映画『オアシス』などで知られる名匠、イ・チャンドン。『ポエトリー アグネスの詩』以来8年ぶりの新作となり、『バーニング 劇場版』は既にカンヌ国際映画祭で国際映画批評家連盟賞を受賞するなど高い評価を得ています。

舞台は現代の韓国。運送会社でアルバイトをしながら小説を書いている主人公・ジョンスが、デパートの店頭で広告モデルをしている幼なじみのヘミと再会をしたことで、幻想と現実が交錯するような奇妙なミステリーが幕を開けます。整形をしたから私のことがわからなかった?と屈託なく言うヘミとジョンスは身体を重ね、ヘミはほどなくして念願だったアフリカへ。彼女はナイロビで出会ったベンという青年とともに帰国します。リッチな生活をしているベンは、古いビニールハウスを燃やすことが趣味だと謎めいた告白をするのでした。

原作にも3人の男女が登場しますが、明らかに違うのはジョンスがヘミに恋をしてしまうこと。ベンをギャッツビーにたとえる描写は原作にもありますが、ジョンスのベンへの嫉妬や格差社会の風景も映画版のほうが色濃くなっています。ヒロインのミカン剥きのエピソードやパントマイムで感じさせる身体性、ふわふわと浮遊しているようで捉えどころのない雰囲気は共通していますが、ひんやりとした虚無感が描かれた小説に対して、この映画版は全編がどこか土着的で「エモい」。ちりばめられているモチーフは同じでも、足踏みしている状況への焦燥感や若者の社会への怒りが描かれているように感じました。原作にはない衝撃のラストシーンも含めて、切ない青春ミステリーとしての余韻が残ります。

今年はこの『バーニング』の他にも、伊坂幸太郎作の小説『ゴールデンスランバー』がカン・ドンウォン主演で映画化され、吉本ばななの小説『デッドエンドの思い出』も日韓共同で製作中です。日本の文学がどう再構築されるのか見比べてみることで、文学と映画、日本と韓国の違いについても新しい発見がありそうです。

ジョンス役には『ベテラン』などで知られる人気俳優、ユ・アインをキャスティング。
©2018 PinehouseFilm Co., Ltd. All Rights Reserved

ベンを演じたのは、アメリカのドラマ『ウォーキング・デッド』、映画『オクジャ/okja』のスティーブン・ユアン。
©2018 PinehouseFilm Co., Ltd. All Rights Reserved


『バーニング 劇場版』

監督/イ・チャンドン
出演/ユ・アイン、スティーブン・ユアン、チョン・ジョンソほか
2018年 韓国映画 2時間28分 
2月1日よりTOHOシネマズシャンテほかにて公開。
http://burning-movie.jp