新型コロナウイルス感染拡大の影響で、例年より約2カ月遅れの4月25日(現地時間)に第93回アカデミー賞授賞式が開催された。今回はコロナ禍で全米の多くの劇場が休館に追い込まれたため、劇場公開されなかった配信作品もエントリー資格を得られるという異例のルール変更があり、作品賞の候補作8本のうち3本が配信作品という事態に(もちろん過去最多)。最多10ノミネートを果たしたのも、Netflixの配信作品『Mank/マンク』だった。
そんな中、栄えある作品賞に輝いたのは、2021年2月28日(現地時間)発表のゴールデン・グローブ賞で作品賞と監督賞を獲得し、アカデミー賞でも大本命と目されていた『ノマドランド』。家をもたず車で各地を転々としながら暮らす“現代のノマド(遊牧民)”を描いたロードムービーで、フランシス・マクドーマンドとデヴィッド・ストラザーン以外の出演者がほぼ全員が実際のノマドというキャスティングでも話題になった。ドキュメンタリーとフィクションが地続きになったアプローチで、アメリカ社会の闇を映し出すクロエ・ジャオ監督の手腕が高く評価され、彼女自身もアジア系女性として初の監督賞に輝いた。
さらに俳優部門でも『ノマドランド』のフランシス・マクドーマンドが、3年ぶり3度目となる主演女優賞を受賞し、前評判通りの結果となった。昨年亡くなった『マ・レイニーのブラックボトム』のチャドウィック・ボーズマンの受賞が期待された主演男優賞は、『ファーザー』で認知症の父親を演じたアンソニー・ホプキンスが受賞。『羊たちの沈黙』以来2度目の主演男優賞となった。
一方、本命不在で混戦の助演男優賞と助演女優賞を制したのは、劇場公開と同時にHBO MAXでも配信された『Judas and the Black Messiah』でブラックパンサー党の黒人指導者フレッド・ハンプトンを熱演したダニエル・カルーヤと、アメリカへ移住した一家の葛藤を描いた韓国映画『ミナリ』の祖母役ユン・ヨジョン。ヨジョンは韓国人俳優初の受賞で、昨年の『パラサイト 半地下の家族』に続いてまたも韓国映画が快挙を達成する形となった。
主要部門以外で印象的だったのが、視覚効果賞に輝いた『TENET テネット』。コロナ禍でハリウッド大作映画が軒並み公開延期となるなか、いち早く劇場公開に踏み切った英断と心意気がこうした形で報われるのは、映画ファンにとっても嬉しいことだろう。
主要部門こそ逃したものの、配信作品『Mank/マンク』『マ・レイニーのブラックボトム』がそれぞれ技術部門で2部門制覇と存在感を示す一方、多様性の時代らしくアジア出身者が監督・俳優部門で選ばれた今年のアカデミー賞。2021年の時代性を色濃く反映した、興味深い受賞結果となった。
<第93回アカデミー賞 受賞結果>
◆作品賞
『ノマドランド』
◆監督賞
クロエ・ジャオ(『ノマドランド』)
◆主演男優賞
アンソニー・ホプキンス(『ファーザー』)
◆主演女優賞
フランシス・マクドーマンド(『ノマドランド』)
◆助演男優賞
ダニエル・カルーヤ(『Judas and the Black Messiah』)
◆助演女優賞
ユン・ヨジョン(『ミナリ』)
◆脚本賞
『プロミシング・ヤング・ウーマン』
◆脚色賞
『ファーザー』
◆撮影賞
『Mank/マンク』
◆編集賞
『サウンド・オブ・メタル ~聞こえるということ~』
◆美術賞
『Mank/マンク』
◆衣装デザイン賞
『マ・レイニーのブラックボトム』
◆メイキャップ&ヘアスタイリング賞
『マ・レイニーのブラックボトム』
◆視覚効果賞
『TENET テネット』
◆録音賞
『サウンド・オブ・メタル 聞こえるということ』
◆作曲賞
『ソウルフル・ワールド』
◆主題歌賞
「Fight for You」(『Judas and the Black Messiah』)
◆アニメーション映画賞
『ソウルフル・ワールド』
◆国際長編映画賞
『アナザーラウンド』
◆長編ドキュメンタリー賞
『オクトパスの神秘:海の賢者は語る』
◆短編ドキュメンタリー映画賞
『Colette』
◆短編映画賞(実写)
『隔たる世界の2人』
◆短編映画賞(アニメーション)
『愛してるって言っておくね』