【Penが選んだ、今月の音楽】
ポピュラー音楽の歴史上、名盤と呼ばれる作品は数多く存在するが、型破りという観点でいえば、アヴァランチーズのデビュー作『シンス・アイ・レフト・ユー』を超える名盤は稀有だろう。世界中でロングヒットを記録したこの作品は、古今東西の3、500枚以上のレコードから900以上の曲をサンプリング&コラージュしてつくり上げたもの。まさにサンプリングの可能性を世界に知らしめた驚愕の1枚だった。
そんな彼らのデビューから20年の時を経て、新作『ウィ・ウィル・オールウェイズ・ラヴ・ユー』が届けられた。20年で3作目という寡作ぶりには目をつぶるとして、ヒップホップからラウンジまで、多彩なジャンルの膨大なサンプリング・ソースを絶妙に組み合わせる作風の素晴らしさは、やはり目を見開くほど感動的である。
サウンドからは毒気や雑味、ダンス感が後退した印象を受けるが、代わりに、宇宙を想起させる穏やかな深淵さや可聴域を超えたノイズだらけの静けさが音の表裏に聴き取れる。“永遠の愛”をテーマに、天文学と宇宙物理学の深遠な謎を多くの人に説いた作家アン・ドルーヤンのラブストーリーにインスパイアされた作品だと知れば、誰もが納得する音づくりだろう。
これまで以上に歌に比重を置いた曲づくりも今作の特長だ。ブラッド・オレンジやウィーザーのリヴァース・クオモといった最前線の人気者だけでなく、昔テレンス・トレント・ダービーとして一世を風靡したサナンダ・マイトレイヤやミック・ジョーンズ、ネナ・チェリー、ジョニー・マー、トリッキーなど、ジャンルを越境する懐かしの顔ぶれも多数集結。20組超のゲストが肉体表現としての歌のすごみを個性豊かに披露するさまは格別だ。
新たな領域に踏み込む新作で、彼らはまたひとつ型を破った。