『イン・ザ・キー・オブ・ジョイ』
セルジオ・メンデス
御年78歳、いまだ攻めます!軽いと見せて過激なセルジオの音。
栗本 斉 音楽ライター軽くて楽しいブラジル音楽。悪口と思われるかもしれないが、これは最大限の褒め言葉だ。セルジオ・メンデスほど、軽やかで人懐っこい楽曲を生み出す音楽家はいないと思ってしまうほど、5年半ぶりの新作『イン・ザ・キー・オブ・ジョイ』は軽い。今の音楽シーンがディープな方向に向かっていることを思うと時代に逆行しているようだが、けっして懐古趣味ではなく現在進行系の音楽を作り上げている。
セルジオ・メンデスはブラジル音楽界の重鎮だ。1950年代よりピアニストとしての活動を始め、その後ブラジル'66というグループを率いて「マシュ・ケ・ナダ」や「ルック・オブ・ラブ」などの名曲を世界中でヒットさせた。80年代にはブラジル音楽に縛られないAORタイプの楽曲で高く評価されたし、92年にはプリミティヴなブラジルのリズムと対峙した傑作アルバム『ブラジレイロ』でグラミー賞を受賞した。また、2006年にはブラック・アイド・ピーズなどとコラボレートして復活を遂げ、若い世代へその名を知らしめたのも記憶に新しい。今回の新作は、いわばその若者向けシリーズの一環ともいえる。実際、コモン、カリ・イ・エル・ダンディー、シェレーエといった各国の人気アーティストが参加し、日本盤にはSKY-HIがリミックスを手掛けた楽曲もある。
だが、こんなことだけ抜き出しても幹は見えない。今作はカヴァーを廃してオリジナル曲で勝負しており、セルジオ自身も積極的にソングライティングに関与して時代の音を追求。しかもゲストに、前衛音楽家として知られるエルメート・パスコアールまで名を連ねていることに驚かされる。このように攻めの姿勢を取りつつも、ポップなサウンドに徹しているのが痛快。御年78歳の過激で軽いポップ職人。それがセルジオ・メンデスの本質であり魅力なのだ。
『イン・ザ・キー・オブ・ジョイ』
セルジオ・メンデス
UCCO-1216
ユニバーサル クラシックス&ジャズ
¥2,750(税込)