まるでSF映画のような怪作。

『ホワイ・ハズント・エブリシング・オールレディ・ディスアピアード?』

ディアハンター 

まるでSF映画のような怪作。

鈴木宏和 音楽ライター

2001年に米国で結成。08年の『マイクロキャッスル』などで高く評価された。1960年代サイケ、クラウト・ロックからオルタナ、テクノなどの要素を含みつつ、内省的なグルーヴに昇華する美しさは比類ない。2019年1/21~1/23に来日公演を予定。

なぜすべては、まだ消えてなくなっていないのだろうか? 直訳すれば、(たぶん)そんな意味のタイトルが冠された3年ぶりの新作。資料的に寄せられている解説文には、「ディアハンターが新たに完成させたのは現在についてのSFアルバムだ」とあるし、これも訳すと「真夏の死」「誰も眠らない」……「迷彩」「平野」「夜想曲」と続いていく楽曲タイトルの流れから考えても、バンドが明確にコンセプト・アルバムと謳っているかどうかはさておき、極めてコンセプチュアルなテーマを持った作品であることは間違いなさそうだ。メンバーの出で立ちを含め、アーティスト写真も何やら妙だし。  
ヒントを得ようと、先行公開された「デス・イン・ミッドサマー」のミュージック・ヴィデオを観てみると、映画『マッドマックス』さながらの荒野の一本道を、フロントマンのブラッドフォード・コックスがひとり彷徨っている。テーマは孤独、ということ?  
ループするハープシコードの音色が印象的な同曲をはじめ、今作の音楽的な基本軸となっているのは、スペイシーでドリーミーなサイケデリック・ポップ。そこにミニマルなインストや、宇宙船のアナウンスを想起させるスポークン・ワード、祈りにも似た歌唱とサックスのなまめかしい響きの交配、狂気とも言えるほどに感情を増幅加工したボーカルなど、エクスペリメンタルな要素が融合し、頭から通して聴くと、なるほど一編のSF映画か、あるいは奇想天外なロード・ムーヴィーを鑑賞したかのような感覚を抱く。そして再びアルバム・タイトルを踏まえ、テーマを考える。現代物質主義への警鐘? はたまた、人間社会の極北?   
歌詞対訳も未読の本稿執筆時点では、どうにも答えが出てこない。アルバムの到着と、来年1月に開催されるレーベル・メイトとの来日公演を楽しみに待ちたいところだ。

『ホワイ・ハズント・エブリシング・オールレディ・ディスアピアード?』
ディアハンター 
4AD0089CDJP 
ビート・レコーズ 
¥2,592(税込)
2019年1/18発売

まるでSF映画のような怪作。