【Penが選んだ、今月の音楽】
他のアーティストとのコラボやCMへの楽曲提供などで、ますます存在感を高めているカン・サノ。彼が5枚目のフル・アルバム『スザンナ』を完成させた。
この作品には「On My Way Home」「DT pt.3」といった先行配信曲や、所属プロダクションorigami PRODUCTIONSがコロナ禍を機に実施した楽曲制作企画「origami Home Sessions」への提供曲「Question」など計11曲を収録。シンガポールのシンガー・ソングライターであるチャーリー・リムが歌う「Momentum」、アメリカの鍵盤奏者ロブ・アラウージョとの共作曲「brandnewday」など、海外勢を招聘したトラックも収められる。
一聴したところ、生楽器がサウンドの軸を担った前作『ゴースト・ノーツ』に比べ、シンセや打ち込みが中心のヒップホップやテクノ風のテクスチャーが印象的なものに。でも仰々しくはなく、“ありそうでない風景”に自然に浸ることができるというか、一貫してアーバンな雰囲気が心地いい。一方で、メロウな生ピアノの音色が深く響く「On My Way Home」が不意打ちのように挿入されるなど、自身の真骨頂を際立たせる曲順の演出も秀逸だ。一つひとつの楽曲に目を向ければ、音選びや音の抜き差しが絶妙。つくり手は、くどさを抑えコクを残そうと腐心するもので、作家性が露呈してしまうのもこの部分。“軽やかだけど、よく見ると超硬派”なバランスで成り立つ本作は、カン・サノのポップ・ミュージック職人としてのセンスが高濃度で凝縮された“業物”であることがうかがえた。
なお、この作品は通常盤の他に、アナログ盤と2CD限定盤も発売されている。限定盤には、即興のピアノ・ソロ12曲を収めたCD『写し鏡のソロピアノ』が付属。本編とはまた異なる、カン・サノの魅力に浸ることができるだろう。