小林武史 サステイナブルの行方。
物質文明が失った、 豊かな生活を取り戻す。
オクダ サトシ(goen°)・絵 illustration by Satoshi Okuda
小久保敦郎(サグレス)・構成 composed by Atsuo Kokubo
家を建てるのは、多くの人にとってマイホームの夢を叶えること。ああしたい、こうしたいという希望がたくさんあるわけです。ただ建築は、資材や運搬、解体に至るまで膨大なエネルギーを消費する。だから、できればエネルギー効率や未来に向けてできることまで視野に入れるといいのだけれど、そこまで重ねて考える人はまだ少ないと感じています。「住宅に太陽光パネルを付けると電気代がこれだけお得になる」という話をすれば振り向く人はいる。でも、建築が環境に負荷をかけているという自覚は、まだ共通認識とはいえません。それでも、意識が変わりゆく兆しはあります。住宅に限らず日本は「スクラップ&ビルド」でやってきましたが、その価値観が少しずつ問われている気がするのです。というのも、近年はリノベして古いマンションに住むことへの抵抗がなくなってきました。また、都市部ではライフステージに合わせて住居スペースを小さくしていく傾向にあるといいます。
僕らがクルックフィールズで最初に用意した宿泊スペースは「タイニーハウス」でした。タイニーハウスは、小さな家のこと。ミニマルで豊かな生活の実践の場として、アメリカでムーブメントが起こりました。タイニーハウスには車輪が付いていて、移動できる。それは不動産を取得して根を深く張るより、自分が背負える範囲で生きていく。そんな象徴でもあります。
クルックフィールズの建築には、象徴性やメッセージを込めてきました。たとえばダイニングは、農産物の舞台を意識した。いろんな命が集まってくるということで、窓を丸く大きく取り劇場のような意匠になっています。またシャルキュトリー販売所の壁は「鉄」。僕らの中では血のイメージです。シャルキュトリーは地元のジビエを使っています。それは、害獣の問題に対し見て見ぬ振りをするのではなく、命をいただくことを通して循環をつくってみようという試みです。その象徴としての鉄を外壁に使いました。
いま、ライブラリーをつくるプロジェクトを進めています。今度の建築は地中に埋め、フォルムを見せない。かたちを自然の中に隠すことを選びました。これまで材質とか、環境に負荷をかけないとか、常にベターな選択をしてきました。次は、自然の中にかたちを内包しながら、営みをつくっていく。これはサステイナビリティにおいて重要な建築になる気がしています。
大量生産と大量消費。そんな物質文明から、いかに「命の手触り」を取り戻すか。さまざまな分野で同じ課題がありますが、建築でもそのことを考えてみました。