ビートルズがいない世界で、 気付かされたシンプルな真実。

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    『イエスタデイ』

    ダニー・ボイル

    ビートルズがいない世界で、 気付かされたシンプルな真実。

    細谷美香映画ライター

    『トレインスポッティング』のダニー・ボイル監督が、『ラブ・アクチュアリー』のリチャード・カーティスの脚本を映画化。温かい笑いと涙に満ちた名作を生んできた製作会社「ワーキング・タイトル」の作品らしい魅力が盛り込まれた一本だ。 ©Universal Pictures

    世界は奇跡に満ちている。そうやってずっと励ましてくれる幼なじみで親友のエリー。主人公のジャックはエリーに支えられながら、イギリスの小さな海辺の町で売れないシンガーソングライターを続けていた。大停電の夜に事故に遭った彼が目覚めると、そこは誰もビートルズを知らない世界だった。
    映画『イエスタデイ』は、大胆不敵なパラレルワールドに名曲の数々をちりばめた、大人のためのファンタジーだ。ビートルズについてインターネットで調べても情報はなく、クローゼットにあったはずのレコードもない。ジャックは戸惑いながら記憶に残っていたメロディと歌詞を引っ張り出して、ビートルズの楽曲を再現して歌い、演奏していく。果たしてデビューにこぎつけるものの、秘密を抱えた彼は罪悪感に苛まれることになるのだ。
    本人役で出演しているエド・シーランが、『ヘイ・デュード』(デュードは相棒の意)じゃダメなの?と提案したり、レコード会社のスタッフが集まったアルバムの会議では『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』は「長すぎる」、『ホワイトアルバム』は「白すぎる」という意見が出たりと、スパイスの効いたユーモアがひと匙。『ヘルプ!』とギターをかき鳴らすジャックの叫びが切実に響くが、その過程をシリアスに転ばせず、人情味あふれる笑いを交えて描き出した手腕はコメディを得意とする脚本家、リチャード・カーティスならではのものだろう。エリーをはじめ両親や友人たちはみな善人で、とぼけた間合いの笑いでジャックが置かれた現実に風穴を開けてくれる。
    奇想天外なサクセスストーリーと不器用な恋愛物語の行き着く先はもちろん映画館で見届けてほしいが、ヒントは「愛こそすべて」。このシンプルな真実に気付いた者にとって、世界は奇跡に満ちているのだ。

    『イエスタデイ』
    監督/ダニー・ボイル
    出演/ヒメーシュ・パテル、リリー・ジェームズほか
    2019年 イギリス映画 1時間57分 全国の映画館にて公開中。
    https://yesterdaymovie.jp/