ヒットの法則は、ソーシャルメディアでバズること――このデジタル・ネイティブ世代の常識は重々承知しているのだが、昔気質なのか、信頼に足る人の口コミこそがいちばんだといまだ信じて疑わないところがある。
アメリカ・バージニア州リッチモンドの5人組精鋭隊ブッチャー・ブラウンも、LAジャズの最重要人物であるカマシ・ワシントンが絶賛したことから深入りしたバンドだった。リッチモンドはR&Bの改革者ディアンジェロの地元でもあるが、同郷のブッチャー・ブラウンもまた「ジャズとヒップホップの未来を予言するバンド」と称される革新的なクインテットである。
ジャズ・ファンク系インスト・バンドとして知られてきた彼らだが、メジャー・デビュー作となった『#キングブッチ』では、新世代らしい折衷性と越境性でファンクやロック、ソウルなども横断しながら、ヒップホップ度数を格段に増大。ラップやボーカルをフィーチャーした曲を複数収録している。もちろん、ジャズを共通言語とする彼ららしく、初期のアース・ウインド&ファイアーを彷彿とさせるジャズ・ファンクから、1970年代を席巻したフュージョンまで、ジャズの遺産と歴史に敬意を表すようにその醍醐味を多角的に表現もしている。
アルバムの肌触りは、黒人音楽の新境地を開いたケンドリック・ラマーの『トゥ・ピンプ・ア・バタフライ』に似ていて、基本の立ち位置がヒップホップにあるか、ジャズにあるかの違いこそあれ、多様な要素を内包する黒人音楽の魅力を生々しくパワフルに体現しようとする姿勢はまるで表裏一体作のようにも映る。実際、サウンド的に類似点も多い。ブラック・ライブズ・マターの風が吹き荒れるいま、黒人音楽がもつ自由さを体現する、こんな本物志向の作品に触れるのも有意義ではないだろうか。