【Penが選んだ、今月の読むべき1冊】
凶悪犯罪が発生すると、近隣住民などに犯人の素性を尋ね、「いやー、ビックリです。そんなことをする人だとは思わなかった」といった声を拾う。いつも思う。そんなことをしそうな人なんて、そこら辺にいるだろうか。
そんなことをする人には見えなかった人が、どうしてそんな過激なことをしてしまったのか。紛争地などでの豊富な取材経験をもつ記者が、「過激化」の正体を探ったのが本書だ。
どんな人がテロリストになるのか、ではない。「大半の人は状況さえ整えばテロリストになるのだ」(エラン・シャダク博士)。社会心理学者のスタンレー・ミルグラムによる「ミルグラム実験」は、隣室にいる人間が設問を間違えたら電気ショックで罰を与えよ、と被験者に指示するもの。間違えるたびに「もっとショックを強めて強い罰を」と言えば、被験者の約3人に2人が電気ショックのレベルを最高まで上げた。命令に服従する態勢が整えば、人はどこまでも過激になるのだ。
著者は、「ローンウルフ」に着目する。組織ではなく、単独行動で起こす犯罪のことだ。そこには、かつての犯罪者への心酔や、テロ組織が戦略的に流すネット情報など、「過激化を促す外的要因」があった。
そして、過激化するプロセスにある傾向が見つかる。自分自身の苦悩や疑問を肯定してくれる物語を探し、それ以外のものを排斥し、自身の言動を後押しする意見を選ぶ。なにかしらのきっかけで具体的な行動を起こすのだ。
重要なのは、これらの傾向を素直に適用し、「過激なことを言う人=テロリスト予備軍」にしてはいけない、ということ。体感治安を悪化させれば、権力にとって管理しやすい社会が整う。正義も悪も単純化を好む。過激化と監視社会化の間に分け入り、人間が抱えもっている危うさを解き明かしてみせた。