日常と幻想を同時に描く、日本映画界の新星。

Creator’s file

アイデアの扉
笠井爾示(MILD)・写真
photograph by Chikashi Kasai
泊 貴洋・文
text by Takahiro Tomari

日常と幻想を同時に描く、日本映画界の新星。

濱口竜介 Ryusuke Hamaguchi
映画監督
1978年、神奈川県生まれ。東京藝術大学大学院映像研究科修了。2011年から共同監督で東日本大震災以後のドキュメンタリー三部作を制作。15年に発表した『ハッピーアワー』はロカルノ国際映画祭で最優秀女優賞を受賞。さらに同作で芸術選奨新人賞などを受賞した。

今年のカンヌ国際映画祭では是枝裕和監督が最高賞を獲ったことが記憶に新しいが、日本人でもうひとり注目を集めた者がいる。映画『寝ても覚めても』を監督した、濱口竜介だ。
「中学、高校時代はミニシアターブームで、タランティーノやウォン・カーウァイなどの映画に刺激をもらいました。ハリウッド映画ともテレビドラマとも違う映画を知ったのです」
東京大学の映画研究会で自主制作をスタートし、卒業後、映画の助監督や経済番組のADなどを経験。その2年後、北野武や黒沢清らが教授に就任して話題になっていた東京藝術大学大学院に入学した。
「作品を講評してもらうんですが、武さんには『もうちょっとわかる話つくんないとダメだよ』と言われて、『自分だって……』と思ったこともありました(笑)。黒沢さんは卒業制作を見て、『非常によかった。濱口の映画を見て、自分の映画の編集を変えたくらいだ』と言ってくれました」
大学院には瀬田なつきや真利子哲也など、いま注目の若手監督もいた。そんな刺激的な場で学んだ濱口は修了後、東日本大震災の被災者たちに迫ったドキュメンタリーを共同で監督した。そこで感じた人間の魅力やリアルの強さを劇映画にとり入れたのが、2015年公開の『ハッピーアワー』だ。一般女性4人を主演にした大作で、ロカルノなどの映画祭を席巻。そして今年、柴崎友香の小説を映画化した『寝ても覚めても』が、カンヌのコンペ部門で上映され、喝采を浴びた。
濱口は『寝ても覚めても』を、「細密な日常描写と、突然訪れる荒唐無稽な展開を可能な限り同居させる」という演出アイデアで撮影。穏やかに暮らしていたヒロインが突然思わぬ行動をとっていくという展開に、現実とファンタジーが地続きになっているような新鮮さを与えてくれる作品だ。
「『まじか?』と笑いが起きても、全然、嫌じゃないです。逆に彼女の行動を『わかる』という人もいると思う。映画は、見る人によって解釈が分かれるもの。それぞれの人生に応じて解釈や感想をもってもらえたら嬉しいし、そういう映画でありたいですね」
今後撮りたいのは「観客がハラハラするようなサスペンス」。それもまた見る人の解釈で自由に楽しめる、豊かな映画になるに違いない。

works

15年に公開、評価を高めた317分の長編『ハッピーアワー』。演技未経験の女性4人を主演に8カ月を費やして撮り上げた。©2015 KWCP

9月1日公開の新作『寝ても覚めても』。東出昌大と唐田えりかが出演。同じ顔をもったふたりの男の間で揺れる女性を描く。©2018 映画「寝ても覚めても」製作委員会/ COMME DES CINEMAS

※Pen本誌より転載
日常と幻想を同時に描く、日本映画界の新星。